第134話 サイド 冬蜻蛉2

 最初に朽木を見たときは、ひたすら怪しい人かと思ったんだ。


 なんたって、まず着ている物がへんてこだった。

 足元は真っ黒な革靴。

 上着は鎖がじゃらじゃらしているし。

 頭には黒い布巻いてるし。

 極めつけは、左手につけたミトンの色。


 全然傾向もバラバラ。色合いもぐちゃぐちゃ。


 そんなぶっ飛んだファッションのおじさんが、急に車の上から降りてきたんだ。しかも、頭の上にはコウモリの羽みたいな物を、パタパタさせて!


 最初は見間違いかと思った。すぐにコウモリの羽は消えちゃったしね。

 でも、革靴なのに、地面に着地したときに足音がしなかったんだ。


 だからあれは本物の羽だったんだって。

 あのおじさんはもしかしたら、悪魔か何かなのかもしれないって。

 僕は、そう思ったんだ。


 そしてそんな悪魔みたいな奴は言ったんだ。

 俺はあいつらの仲間じゃないってさ。


 そして僕はそれを信じたんだ。


 どうしてって?


 それはね。朽木の方があいつらなんかよりも、ぶっ飛んだ存在だったから。そんなの、一目瞭然だったから。悪魔のような、そんなぶっ飛んだ存在。


 だから僕は自分の勘を信じたんだ。朽木が悪魔なんだとしても、いいかなって。

 悪魔なら、きっと変えてくれる。このまま、ただ、連れて行かれるのを待つだけの、僕たちの運命を変えてくれるって。

 それにそれは、すぐに正しかった事がわかった。


 そんな訳で、それから僕らは朽木に連れられて逃げ始めたんだ。


 途中、朽木が手すりを溶かした時には驚いた。

 掴もうとしていた手すりが、突然溶けて消えたんだ。思わずよろけそうになって、でも肝心の手すりがなくて。思わず悲鳴をあげちゃったよ。


 その後に朽木が話してくれた、魔法に冒険者のこと。

 まるでゲームの主人公かと思ったよ。

 まるでおとぎ話みたいな事をばか正直に話す朽木。

 僕はそれも信じることにしたんだ。この時には悪魔じゃないかもって少し思った。悪魔にしては何だか抜けてるなって感じたんだ。


 そして逃げる最中。現れたあいつらを、朽木は目にも止まらない速さで飛び回って、あっという間に殺しちゃったんだ。


 痛快だった。

 爽快だった。


 連れ去られて戻って来なかった沢山の子達のかたきが。

 お父さんとお母さんのかたきが。

 そして妹のかたきが。


 なすすべもなく。

 瞬きする間に。

 ただの肉になっていたんだよ。


 こんな嬉しいことが本当にあったなんて。この時に、僕は確信した。

 これは奇跡なんだ。これこそが奇跡なんだ、ってね。


 それから僕が余計な事をしちゃったせいで朽木に迷惑をかけちゃった。

 なんか手足の長い気持ち悪い奴と朽木が戦っていて。でも苦戦しているように見えて。少しでも役に立てるんじゃないか。

 こんな奇跡が本当にあるなら。

 僕にだって何かできるんじゃないか。

 そう、勘違いしちゃったんだ。


 その結果があのざま。

 あーあ。


 でも、朽木は優しいんだ。

 余計な事をして。

 足手まといになって。

 そんな僕を見捨てないでいてくれた。

 足手まといの小さな皆も見捨てないでくれた。


 今、こうして、ぬいぐるみみたいなぷにっと達と、皆が遊んでいられるの。やっぱり奇跡なんだなって。


 あんなに楽しそうな皆の顔、初めてかもしれない。


 あーあ。

 この奇跡の代償。

 悪魔に払うべき、代償。

 僕、一生かけても必ず払ってみせるよ。朽木。



 

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