第128話 ホームセンターの外へ
追い付いてきた子供達。当然、さっきの黒い煙の事を、口々にきいてくる。
俺自身、よくわかっていない事なので、上手く答えられないでいた。こんな時でも衰えない子供達の好奇心に、しどろもどろしていると、ついには気を利かせた冬蜻蛉が、早くホームセンターから出なきゃと発破をかけてくれる。
軽く頷いて小声で感謝を伝える俺。
冬蜻蛉は軽く肩をすくめて、指を一本立てて見せてくる。
──助かった……。あの指はなんだろう? 貸し一つってことかな。
再び歩き出す俺たち。出口が近づくにつれ明るさも増し、床に散らばる商品も減ってきて、進む易くなる。
子供達も早く外に出たいのだろう、自然と皆の歩く速度が上がる。
ついに出口に。その直前で立ち止まると俺は抱えていた幼子を下ろし、冬蜻蛉に託す。そしてゆっくりと様子を伺うために近づく。
──ぷにっと達が火をつけた場所とは違う出入口だな、よし。ここもガラスの自動ドアか。
俺は一枚目の自動ドアをゆっくりと開けていく。やはり電気は切れている。隙間を通り、そのまま風除室へ。
外へ繋がるガラス製の自動ドア越しに外を見る。
──見える範囲では敵の姿はないか。
ガラスに顔を押し付けるようにして外の左右を確認。
──いや、いたっ!
左手前方、百メートルは離れていないぐらいの場所にゴブリン達の群れが見える。
しかし、様子がおかしい。遠目だからはっきりしたことは分からないが、ただただ立ち尽くしているだけに見える。
──そういえば、巨大ゴブリン達も。白蜘蛛を殺したからか? あのゴブリン達も元々は……
俺はゴブリン達の様子を確認すると、冬蜻蛉達の元へと戻る。
「みんな、聞いてくれ。外にゴブ……いやえっと、妖精達の集団がいる。ただ、距離もあるし、上手くすればやり過ごせると思うんだ。可能性としては、気づかれても攻撃してこないってことすらあり得るけど、そうじゃないかもしれない。だから、念のため俺が囮になる」
俺は一度言葉をきり、子供達の顔を見回す。
皆の一様に不安そうな表情に、自分の説得力の足りなさを痛感しつつ、冬蜻蛉と猫林檎に向けて続きを話す。
「俺が飛び出して、30秒数えたら道路に向かって進んで欲しい。そのまま大きな道をあっちの方向に進むとネットカフェがあるんだけどわかるかな?」と俺は指差しながら冬蜻蛉の反応を伺う。
「うん。入ったことはないけど、わかる」と冬蜻蛉。
「よし。それじゃあそっちの方へと進んでくれ。すぐに追いかけるから」
「わかった」と答える冬蜻蛉の表情は硬い。
冬蜻蛉の心配もわかる。ホームセンターの外にいるゴブリン達をやり過ごせたとしても、俺がいない間に、別のゴブリンの集団と鉢合わせすることだって、ありうるのだ。
俺もずっと子供らに付いていた方がいいかもと、どうしても考えてしまう。自分の決断に自信が持てない。
しかしそれでも、子供達を連れたまま外のゴブリン達の集団から追いかけられた場合、子供達を完全に守りきるのは難しい。それならやはり俺が囮になる方がトータルのリスクは少なくなるはず。
俺は自分にそう言い聞かせると、改めて子供達へ声をかける。
「大丈夫! すぐに追い付くから。ほら、俺が魔法を使えるの皆も見ただろう? 魔法でパパっと済ませて、あっという間に合流するよ」と精一杯の笑顔で伝える。それを聞いて頷いてくれる冬蜻蛉と猫林檎。他の子供達はそんな二人の表情を伺っている様子。
──魔法というフレーズが子供心に響くかと思ったけど、どうやら俺の必死さに気を使ってくれただけかもしれないな。
「よし、それじゃあちょっと行ってくる。30秒、数えはじめてくれ」
俺は最後に皆の顔を見回すと、扉の外へ。飛行スキルを発動し、ホームセンターから飛び出した。
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