第126話 白蜘蛛の秘密

 俺は、開いたステータス画面を見て、思わず手にしたハンマーを投げ捨てる。

 気がつくと無意識のうちに、手のひらを服に擦り付けていた。


 ──なんだこれ、気持ち悪い。


 俺は、思わずしゃがみこみ。

 背後からおずおずと近づいてくる足音。軽い足音は冬蜻蛉かと頭の片隅で考えながら、俺の頭は先ほど見たステータス画面の内容でいっぱいだった。


「朽木、大丈夫? 倒した、んだよね。あいつら」


「ああ。倒したよ」


 俺は子供の前でこんな無様な姿を見せられないと、気合いを入れ直して立ち上がる。僅かによろけるが、何とか立ち上がることには成功する。

 見ると、冬蜻蛉は爪先で白蜘蛛の首の折れた死体を触っている。

 冬蜻蛉の爪先の動きに合わせ、ごろんと転がる白蜘蛛の首。


「このっ!」突然、死体を蹴り始める冬蜻蛉。まるで溜まりに溜まった怒りが噴出するかのように。

 その背中から漂うのは、怒りと悔恨の雰囲気。


 突然の冬蜻蛉の行動に、俺は感じていた気持ち悪さも忘れて呆然としてしまう。

 俺はなんと声をかけようかと、迷う。


 その間も続く冬蜻蛉の蹴り。

 言葉が見つからず、それでもおずおずと伸ばした手が冬蜻蛉に届く前に、冬蜻蛉の動きが止まる。


「はぁ、はぁ」荒い息をつく冬蜻蛉。


 振り向いたその頬は涙に濡れている。冬蜻蛉と目が合う。

 馬鹿みたいに腕を伸ばしたままの俺が、心配しているのがわかったのか、一度目を伏せ、呟くように口を開く冬蜻蛉。


「妹が、いたの。二人。双子で、生意気だったけど、元気いっぱいで。いつもいつもお姉ちゃんお姉ちゃんってついてきてて」


「うん」


「あいつらに連れていかれて、結局、そのまま戻って来なかった」


「……そうか」


「仇をとってくれて、ありがとう……」ぼたぼたと床を濡らす、滴。


 俺は、白蜘蛛のハンマーを手にして見たステータスの事が頭をちらつき、満足に冬蜻蛉に答えることすら出来なかった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 25(3down)

 イド 11


 装備品 

 革新の長柄両口ハンマー(スキル 幼生体ゴブリン化)new!

 チェーンメール (スキル インビジブルハンド)

 カニさんミトン (スキル開放 強制酸化 泡魔法)

 黒龍のターバン (スキル 飛行)

 Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)


 スキル 装備品化′ 廻廊の主

 召喚 

 魂変容率 17.7%

 精神汚染率 ^D'%

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 初めて俺の装備品化以外でスキル付きの武器が表示されたステータス。そしてそこに付与されていたスキルの字面から自然と連想してしまう、最悪の想像。

 何故かホームセンターに集められていた子供たち。普段は閉じ込められ放置され、時間をおいて徐々に連れ出されていたのが、冬蜻蛉の言葉の端々からわかってしまう。


 ──冬蜻蛉がその事にどこまで気がついているのか、分からない。どうしよう迂闊な事が言えない。


 その時だった。はっと天井を見上げる冬蜻蛉。つられて俺も上を見る。


「煙っ!?」と涙を拭いながら冬蜻蛉が叫ぶ


「ヤバい、他の子供達を」俺は急ぎ階段へと走り出す。


 ホームセンターに、ぷにっと達の放った火が回り始めてきていた。

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