第120話 脱出
ぞろぞろと車から降りてきた子供達。
それぞれ出てきた車から、ある子供は小走りに。また別の子供は怖いのかそろそろと、こちらへ向かってくる。
俺冬蜻蛉の後ろに隠れるように子供達が並ぶ。
──冬蜻蛉を入れて、七人、か。しかし、ゴブリンの巣窟のようなこんな場所で、よく生き残っていた。いや、閉じ込められて生かされていた?
俺は、脱線しそうになる思考をとりあえず後回しにする事に。
──いやいや。今はそれよりもどうやって逃げるかだ。この人数だと、さすがに全員抱えて飛ぶのは無理だよな。
改めて全員を見回す。
どうやら冬蜻蛉が最年長のようだ。皆、うっすらと垢にまみれ、服装もサイズの合っていない、だぼだぼの物。しかし、ジャンパーの重ね着のような奇抜な格好は冬蜻蛉だけだった。
──ここが、平行世界だか、異世界だかで。ジャンパーの重ね着とか実はここではありきたりな服装って可能性も考えていたんだけど。他の子を見るに、冬蜻蛉のセンスが変なだけか。
再び脱線する。子供七人も連れて脱出するという無理難題に、無意識のうちに思考放棄してしまっていた。
ボーッと重なったジャンパーの裾を眺めていたせいか、そのタイミングでこちらを睨んでくる冬蜻蛉。まるで俺が失礼なことを考えていたのがバレているかのようだ。
俺は誤魔化そうと、急ぎ質問を投げ掛けてみる。
「この建物にいる人間って、ここにいるだけ、かな?」
その俺の質問に顔を見合せる子供達。
何人かは下を向いてしまう。
どうやら迂闊にも、地雷な質問だったみたいだ。
「──もう残っているのは僕らだけだよ」
強めの口調で、やや早口で告げる冬蜻蛉。その鋭い眼に、これまで何をうつしてきたのか、思わず想像してしまう。
「そう、か。すまない」
「──それで、逃げられるの?」と俺の謝罪に軽く頷き、冬蜻蛉がたずねてくる。
「あ、ああ。そうだな。急ごう。何としてでも助けるよ。走れない子はいるかな?」
無言で首を振る冬蜻蛉。
「よし、じゃあ……」
「二分待って。準備するから。猫林檎」と、冬蜻蛉が別の子供に声をかける。
「はいよ、アネキ」と、猫林檎と呼ばれた子供が走っていく。
それを見送った冬蜻蛉は、残った子供達の方を向くと、ぎゅっと抱き寄せ、小声で何かを語りかけ始める。
なんとなく聞いてはいけない雰囲気を感じて、俺はそっぽを向いておく。そこへちょうど駆け戻ってくる猫林檎。手にはリュックサックが二つ。
話しを終え、すっと立ち上がった冬蜻蛉は、リュックサックを受け取りながら口を開く。
「お待たせ。さあ、いいよ」と準備とやらが終わったことを告げる。
「よし、こっちだ」俺は子供達を引き連れ、先ほどの階段へと向かって歩き出した。
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