第119話 子供達

 バンのドアから首だけ出し、その子供はキョロキョロと辺りを見回す。


 ──うわっ。人いたよ。けどまさか、子供とは。確認しに来ておいて、本当に良かった。……いやはや、どうしよう、これ。


 俺は頭を抱えたくなりながら、立ち上がると、床へと飛び降りる。

 ビクッとこちらを向く、その子供と目が合う。

 子供とは思えない険しい視線が、俺の瞳へ向けられる。


 ──あっ、フード着けてなかった。こんな状況で瞳が真っ黒の人間見たら、そりゃあ、警戒して当然か。


 声をかけようとした俺より先に、その子供が半身をバンからのぞかせ、問いかけてくる。


「……おじさん、誰」子供特有の、少し甲高い声。


「お、おじ……あー。こんにちは。俺は朽木。冒険者なんだが──。君の名前、聞いても?」


「……冬蜻蛉ふゆとんぼ


「冬蜻蛉さん、か」


 ──とりあえず、名前は聞けたぞ。しかし、冬蜻蛉。ずいぶんと珍しいな。苗字か、名前か。いやハンネとかの可能性もあるのか。


 俺が黙り混んでしまうと、再び冬蜻蛉が口を開く。


「朽木は、あいつらの仲間なの?」


 真剣な表情。その瞳が、諦めと希望の狭間で揺れ動く。


 ──あいつら? ゴブリンの事か?


「あいつらってのが誰かわからないからはっきりと言えないけど、違うと思うよ。今、俺の仲間は一人だけ、だから」


「ならっ! ここから僕たちを助けてっ」と、バンから飛び降りながら、抑えた叫びを上げるその子供。

 何枚も重ね着された大人用のジャンパー。裾が、飛び出す動きに合わせてはためく。


 近くで見ると、ジャンパーの下からのぞく服もぶかぶか、顔もだいぶ汚れている。

 しかし、最初に思ったよりも幼くないみたいだ。多分、十歳は越えている気がする。


 ──ジャンパー、何枚も重ね着しているの、初めて見た。しかも大人用でサイズ感が……。いや、そんなことよりも聞き捨てならない台詞があったような?


 俺は嫌な予感にとらわれながらも、問いかけてみる。


「僕たちって? ──えっと、何人いるのかな?」


 冬蜻蛉は重ね着したジャンパーの間に手を突っ込む。ちらっと目に入った限りだが、様々な物がジャンパーの間に吊るされているようだ。

 取り出された冬蜻蛉の手には、体育の授業で使うようなホイッスル。


 冬蜻蛉が短くホイッスルを鳴らす。

 周りのバンのドアが開く。


 するとそこからぞろぞろと、子供達が降りてきた。



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