第110話 斜め上
俺は増やした水や缶詰等の食料をネカフェに運び込みながら次の予定を考えていた。
ちらっと江奈さんのブースを確認するがどうやら疲れて寝てしまったようだった。
──ホームセンターのゴブリンを排除しに行くにしても、ネカフェをこのままで江奈さんを置いていくのは危険だよな……
起こさないように、そっとブースのドアを閉めながら、思考はめぐる。
──食べ物も飲み水も、潤沢にあるとは言えないしな。やっぱり手近な場所をもう少し漁ってみるか。リスクはあるけど。
俺はとりあえず、すぐに戻れる範囲の住宅を訪問してみることにする。
──探すものは食べ物、飲み物と、何か防犯になるものだけど……。何があればいいか、さっぱりだよな。ドアを塞いでおく物とか一般家庭にあるとも思えないし。まあ、いいや。行ってみて、探しながら考えよう。飛行スキルを……
と、ネカフェの外に出たときだった。
目の前、数メートル先にワーボルトの姿が。
ドアの開閉で音がしたのだろう。
こちらを見ていたワーボルトと目が合う。
「ガァッッッー」雄叫びをあげ、突っ込んでくるワーボルト。
「げっ」俺は発動しかけの飛行スキルを諦め、カニさんミトンを掲げる。
そのまま、酸の泡の盾を展開。
目の前で広がる酸の泡。
泡越しに見えるワーボルトは、構うことなく突っ込んでくる。
──もしかして、酸の耐性持ちっ!?
思わず、身をかたくする俺。
泡の盾に飛び込んだワーボルトは、そのまま苦悶の叫びを上げて、溶けていった。
「!?」
思わず、まじまじとその様子を見てしまう俺。毛がなくなり、皮膚が全身火傷のようになって、すぐさま、ぼろぼろになるワーボルトの体。
ある程度、溶けた所で、そのまま黒い煙と化す。
俺は酸の泡の発動をやめる。
何か対策があって突っ込んできたと思ったが、どうやら俺の勘違いだった。ゴブリン達の知能の高さ基準で考えていたが、どうやらワーボルトは並のモンスター程度の知能しかなさそうだ。
──そういえば、ゴブリン達にいいように狩られてたわ。あー。びっくりした。驚き過ぎて、倍加の検証するの忘れてたよ。
黒い煙が渦巻き、一つの姿へと形作られていく。
「新装備っ! ……これは、手袋かな」
俺は地面に落ちた装備品を手に取る。
ひっくり返してみる。手袋の表面に、ぷにぷにとした物がついている。
「このぷにっとした物は、もしかして肉球……?」
俺はカニさんミトンを外し、肉球らしき物がついた手袋をはめると、ため息を堪えながらステータスを開いた。
──手につける物ってどうしてこう、ネタ名称の予感がするのか……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆
年齢 24
性別 男
オド 24(3down)
イド 19(5up)
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
チェーンメール (スキル インビジブルハンド)
ぷにぷにグローブ (スキル ぷにっと注入)new!
黒龍のターバン (スキル 飛行)
Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)
スキル 装備品化′ 廻廊の主
召喚
魂変容率 17.7%
精神汚染率 ^D'%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ぷっ、ぷにっと注入? 装備品名だけじゃなくて、まさかのスキルまでネタ枠っ!」ステータス画面を見ていた俺は、頭を抱える。
カニさんミトンにググリングと、手につける装備品のネタ名称率の高さから覚悟はしていたが、さすがにこれは予想の斜め上だった。
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