第111話 ぷにっと

「どうするよ、これ。試しに使ってみるか?」


 俺は右手につけたぷにぷにグローブの肉球をぷにぷにしながら呟く。


「もしかしたら、すごいスキルかもしれないしな」


 俺は気合いを入れ直し、右手のぷにぷにグローブを前にかざすと、口を開く。


「ぷにっと注入っ」


 イドが勢いよく引き出されていく。

 ──っ、かなりの勢いだっ!


 俺の瞳には、引き出されたイドがぷにぷにグローブの肉球に収斂していく様子が映る。

 中央の大きめの肉球と、指部分の四つの小さな肉球。

 それぞれに集まったイドが、肉球の収納限界を超える。

 そのまま、肉球から弾き飛ぶようにして、イドがぷにぷにグローブから発射される。


 しかし、ぷにぷにグローブから離れたイドはすぐさま霧散してしまう。

 シーンと静まり返るネカフェ前の道。


「あれ、これだけ?」そこに居たのは、無駄にイドを消費しただけの俺。


「おかしいな。確かにイドは消費されたから、スキルは発動したはずだけど」


 俺は首をかしげる。


「ぷにぷにグローブから離れた瞬間、イドが霧散したように見えた。ああ、そうか。ぷにぷにグローブの肉球が、何かに触れてないといけないのかな?」と仮説を立てた俺は、早速何かないか探してみる。


「──とりあえず地面でいいか」


 と、両膝を抱えるようにしてしゃがみこむ俺。

 足元のアスファルトにぷにぷにグローブをつける。


「ぷにっと注入っ」再び唱える。急速に引き出されるイド。


 イドがぷにぷにグローブの肉球に溜まり、弾けるようにして飛び出す。

 飛び出したイドは肉球の形を保ったまま、アスファルトへ。


 俺は立ち上がって、上からその様子を眺める。


「アスファルトにイドがついているけど。これがぷにっと注入のスキル? え、何の役にたつの、これ」


 そんな俺の呟きがフラグだったのか、地面についたイドを中心に、アスファルトがぼんっと弾ける。


「うわっ」近距離で観察していた俺は思わず顔を手で庇う。


「びっくりした。なんだなんだ」と、かざした手をどける。すると、目の前にちんまりとした物が見える。 


 それは、アスファルトで出来た犬だった。

 二本足で立っている、それの背の高さは俺の腰ぐらい。

 顔は完全に犬で、何となく柴犬っぽい顔立ち。

 ぬいぐるみというには精巧な見た目。

 次の瞬間、それが、口を開ける。そして、ぺろんと舌を出して本物の犬のように呼吸を始める。


「動いたっ!?」俺はじっと様子を伺う。


 大人しく立ったまま、こちらを見つめる犬の姿をしたそれ。


 俺はそっと手を伸ばしてさわってみる。


「あれ、以外と柔らかい」アスファルトの見た目に反して、堅くない。ゴムのような弾力がある。


「くぅーん」と、その二本足の犬が鳴いた。


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