第106話 ネカフェ防衛戦

「急げ急げ急げ」俺は一心にネカフェを目指す。眼下の幹線道路にはゴブリンの姿が明らかに増えてきている。


「見えてきた! ──遅かったか?!」ネカフェ前を彩る魔法弾の輝き。かつてピンクキャンサーのスタンピードの時のように、氷の壁がネカフェを取り囲むように展開され、その隙間を縫うように七色の魔法弾がばらまかれていた。


 ネカフェ前では、すでに江奈とゴブリン達による戦端が開かれていた。


「ゴブリン達、統制がとられているのかっ」


 明らかに誰かが、指示出しをしているようなゴブリン達の規則だった動き。

 幹線道路を埋め尽くすゴブリンの一団。

 その最前列には、盾がわりなのだろう、直径の大きなフライパンやら鍋やらを構えたゴブリン達が江奈の魔法弾をいなしている。人よりも小さなゴブリン達が構えると、そんな物でも射線のほとんどが遮られてしまうようだ。


 驚異的なのは、時たま魔法弾に倒れるゴブリンが出た時。そう、ちょうど今も。

 倒れた盾持ちの背後に控えた別のゴブリンが、何と落ちたフライパンを拾い、防壁の維持に参加したではないか。


 そうして維持された盾役の背後から、小型の包丁や簡易的な火炎瓶らしきものを投げつける別のゴブリン達。


 江奈さんの七色王国が、今の所その全てを打ち落としているも、押され気味なのは明らかだった。

 その時だった。ゴブリンの一団がこっそりと別動隊を作り、ネカフェの背後に回り込もうとしている様子が空から見える。


 それを見て、俺は強行突破から江奈を抱えての離脱を決意する。

 俺は包丁や魔法弾の飛び交う中に急降下して降りて行く。

 ゆっくりと流れ始める周囲の様子。


 意識のギアが、上がる。


 目の前を通り過ぎる火炎瓶のちらちらと揺らめく炎。

 そこへ吸い込まれるようにして当たる、七色王国セブンキングダム。白色のそれはノックバック効果を生み、火炎瓶をゴブリン達へと弾き返す。

 空間を埋めつくような飛翔物をかわしにかわし、俺はネカフェの入り口前に着地する。一歩、入り口へ踏み出す。


 その時だった。

 圧倒的な殺気。

 真横から振るわれた巨大な何かに、俺は弾かれる。僅かに取れた防御姿勢。

 俺の加速された知覚をもってしても、その直撃を避けきれなかった。

 空を舞いながら、その正体を見極めようと体をひねる。


 ──ホブゴブリンっ?!


 視界に入ってきたのは、人の五割ましの背丈の筋骨隆々としたゴブリンの姿。そいつが、丸太のような物を振り抜いた姿勢でこちらをニヤニヤと見ていた。




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