第103話 発見

「江奈さんっ、江奈さんっ!」


 草むした空き地をフラフラと進む江奈さんの後ろ姿に、俺は急ぎ近づきながら声をかける。

 相変わらず反応はない。


 ──聞こえていないはず、ないのに。何かおかしい。


 俺は手にした鍬を放り投げ、目の前まで近づいてきた江奈の肩に手をかける。

 ビクッとする江奈さん。俺はそのまま前に回り込む。


「くち、き……?」


 と、まるで今、俺に気がついたような、ぼうっとした表情。

 間近にある江奈の顔をまじまじと観察する。

 ゆっくりと視線のピントが、俺に合っていく様子がわかる。


「一体、どうした! 大丈夫っ?」俺は揺らさないように気をつけながら訊ねる。


「あ、ああ。夢を見てた、みたい」片手で髪をかきあげ上を向く江奈。


「夢?」


「そう、アクアになって、果実を探す夢……。っ!」とうわ言のようにそこまで話した所で、突然右足を抑える江奈さん。

 右足を包むスキニーパンツは繭に取り込まれる前の戦闘で所々破れ、ぼろぼろになっている。その破れた部分から見える、蔦に締め上げられて出来たアザ。江奈さんの手の下で、まるで一瞬、そのアザの形が変化したかのように見えた。


「大丈夫っ?」と、とっさに支えようとする俺の手をそっと押し退ける江奈。

 痛みに細められた江奈の瞳。一瞬、それが蒼色に変化したかのように見えてしまう。俺の頭に過るのは、ミズ・ウルティカがかつて操られていた姿。


「問題ない、わ」と強がる江奈。こちらに向けられたその瞳はいつもと変わらない。


「そう、か。近くにネカフェがある。まずはそこまで行こう。前みたいに抱えていく?」


「ばか」と言って歩き出す江奈。


 俺は放りっぱなしになっていた鍬を取りに行く。投げた勢いで地面に刃が刺さった状態の鍬をよいしょっと抜く。

 何故かそこだけ、他の場所より草むしている感じがして首をかしげる。


「朽木、ネカフェはどっちなの?」と江奈の声に我にかえる。


「あ、ああ。とりあえずあっちのガソリンスタンド行こう」


「わかったわ」と歩き出した江奈。気張って何でもないふりをしているが、後ろから見ていると右足を僅かに引きずっているのがわかる。

 俺は江奈さんの右足も気になりながらも、そっと質問してみた。


「それで、果実ってどんなものなの?」

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