第62話 復活と代償
急速に浮かび上がる意識。
最初に感じたのは、激しい嘔吐感だった。
俺はとっさに横向きに転がると、激しく噎せこむ。
だぼだぼと、血が滝のように口から溢れる。
「うぇ、ごは、ごふっ」
這いよるように近づいてきたイド枯渇状態の江奈が、えずく俺の背中を叩いてくれる。
ひとしきり体内のものを吐き出すと、ようやく辺りを見回す余裕が出てくる。
辺り一面に広がっているのは、自身の体液や肉片。後はアクアの粘体の残骸。
「エナさん、アクアは? 師匠は?」
「ごめんなさい、アクアには逃げられた。師匠は……」
圧し殺すように話す江奈。うつむき、声が続かない。
俺はそっと、江奈の肩に腕を回す。
俺の体にこびりついた肉片で服が汚れるのもかまわず、江奈がひしっとしがみついてくる。
俺は、ただただ零れる江奈の無言の涙を、肩で受け止める。
ようやく顔をあげる江奈。
「クチキ、目が……」
なんのことを言われているのかわからない俺。しかし、ふと、死にかける前に自分のしたことを思い出す。発動しっぱなしだったイド・エキスカベータを切り、急ぎステータスを確認する。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)
年齢 24
性別 男
オド 27
イド 12
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
チェーンメール (スキル インビジブルハンド)
カニさんミトン (スキル開放 強制酸化 泡魔法)
なし
Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)
スキル 装備品化′ 廻廊の主権
召喚顕在化 アクア(ノマド・スライムニア) 送喚不可
魂変容率 17.7%
精神汚染率 ^D'%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ステータスはどうなってる、クチキ?」
江奈の心配そうな声。
「なーに。大したことないっぼいよ。目はとうなってる風に見える?」
俺は師匠を亡くしたばかりのエナさんに心配をかけたくなくて、軽めの返事を返す。
ついでに、ホッパーソードの刀身の部分に顔を写らないか試してみる。
「大したことないわけないじゃない。目、真っ黒だよ……。白目がない。見えてるの、それ?」
ちょうどホッパーソードの刀身に顔が写る。
確かに江奈の言う通り、白目の部分が真っ黒に染まって、眼球全体が黒くなっていた。
(これは、ステータスの精神汚染率がバグって表示されているからか、もしくは何故か増えている新しいスキルのせいか。廻廊ってアクアが何か言ってたな。世界をつなぐ廻廊がどうとかって。アクア、か。どちらにしても、このままにはしておけないよな。師匠の仇だし、そして奪われたものを取り返さなきゃ。放っておいたら、なんか良くない事を起こしそうだったしな。)
視線を江奈に戻し声をかける。
「エナさん、俺の目は大丈夫。逆によく見えるぐらいだわ。まあ外歩くなら、サングラスはいるかもだけどね。そういやサングラスって、かけたことないな。俺ってどんな形のサングラスが似合うかな? 一緒に買いに行ってくれる?」
「もう、こんなときに何いってるのっ! ……まあ、一緒に買いに行くのはいいけど。」
涙が途切れないまま、笑顔を見せる江奈。
そんな彼女に、しかしこれだけは聞かないとと、決意して話し始める。
「それでさ、エナさん。」
「なに?」
「師匠の最後の攻撃のこと、聞いてもいいかな?」
「……追いかけるのね。アクアのこと。どれだけダメージが入っているか知りたいのね。」
江奈の何故か優しげな表情が胸に刺さる。
「うん。ごめんね。」
「私も、あまり詳しくはないのだけど。師匠の最後の攻撃は、一撃入魂(ワンショットリーンカーネーション)というらしいわ。あの手に持っていた弾丸。あれが一射絶魂(ワンショットアセンション)で産み出した弾丸らしいのだけど、それに自身の魂を込めることで、敵に撃ち込む際に、あらゆる存在を自身の魂とともに輪廻の環の中へ導く技、らしいわ。」
「でも、アクアは結局逃げてしまった……」
「ええ。でも、アクアの存在のほとんどは輪廻の彼方へと還ったはずよ。最後に見たときは普通のスライムと変わらないように見えた。」
そういってうつむく江奈をきつく抱きしめ告げる。
「ごめん、辛いこと聞いて。館まで、送るよ。」
「……うん。ねえ、すぐに追いかけるの?」
「ああ。今、行かないといけない気がするんだ。」
俺はよいしょっと江奈を担ぎ上げるとこっそり重力軽減操作をかけて歩き出した。
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