第55話 最後の試練?
溶けきる前に、バラバラに体がほどけ黒い粒子となり、渦巻き始める四つ手の敵だったもの。
その渦から、また一条、煙がたちのぼる。
その一条の黒い煙が俺に向かってくる。二度目ということもあり、落ち着いて俺は様子を見守る。
一条の黒い煙は俺の左手に近づくと予想通りカニさんミトンへと、吸い込まれていく。
カニさんミトンが僅かに震える。すると、ピンクの泡をその表面にポコポコ出し、やはり光りだす。その光が魔法陣を形成すると、ゆっくりと回転しながらカニさんミトンの表面へと戻って行く。
吸い込まれていく魔法陣。
すべてが終わったあとには、ミトンの表面に新たな刻印が、印刷されたかのように刻まれていた。
「こ、これは。どうみてもカニパン柄、だよ……」
可愛らしさのレベルが急上昇したカニさんミトン。俺は諦めのため息をつきつつ、ホッパーソードの方はどうかと、黒い渦巻く煙を見つめる。
しかし、それ以上の煙の分離は生じず、徐々にまた煙は人がたをとり始める。
(あれ、カニさんミトンだけ? 戦闘中にスキルを開放しなかったからかな。それとも、もしかして一つしか選べないのか?)
俺は黒い渦巻く煙から視線を外さないように意識しつつ、ホッパーソードのダンジョンの因子を探ってみる。
(因子がある、のはわかる。でも、なんか弾かれる感覚があるな。これはやっぱり、それぞれの戦闘で一個しか選べないっぽい。まあ、いいや。イド生体変化のスキル開放は地雷臭がするし。せめて見た目は人間で居たいし。)
俺がこっそり検証している間に、渦巻く煙は三度、人の姿を取る。
それは、高校生ぐらいの頃の俺の姿であった。
右手にホッパーソード、左手にはカニパン柄のカニさんミトン。足元は刻印されたGの革靴。
グランマントを羽織り、その下にはチェーンメイル。
背中には束ねたツインテールウィップを背負い、頭には黒龍のターバン。そして深淵のモノクル。
俺はそこまで見ると急ぎ片目をつぶる。
(あっぶなー。)
ちらりと見えた鏡には全く同じ姿に変わっている俺が映っていた。俺は急ぎ深淵のモノクルを外し、しまい込む。
(これ、グランマントとチェーンメイルはどちらが効果、アクティブになってるんだ?)
急ぎステータスを開く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)
年齢 24
性別 男
オド 27(1up)
イド 15(1down)
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
チェーンメイル (スキル インビジブルハンド)new!
カニさんミトン (スキル開放 強制酸化 泡魔法)new!
黒龍のターバン (スキル 飛行)
Gの革靴 (スキル開放 重力軽減操作 重力加重操作)new!
スキル 装備品化′
召喚潜在化 アクア(ノマド・スライムニア) 召喚不可
魂変容率 0.7%
精神汚染率 0%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その間に、目の前の敵はどうやらイド・エキスカベータとデータ処理器官を作ったのだろう。深淵のモノクルをつけたまま、ゆらゆらと揺れだしたかと思うと、こちらにゆっくりと歩いてくる。
「うわ。はたから見たらあんな感じなんだ。完全にイっちゃってる人みたいだ。」
俺は複雑な気分でさらに若返った自分の姿を見る。
(今回装備品は4つ増えたか。次がもしあったら8個増えるんだろうけど。そこまで装備持ってないから、ここで終わりかな。きっと、この4つの中からスキルを開放するものを1つだけ選ぶんだろうな。)
俺はイド生体変化で、イド・エキスカベータだけ形成する。次にホッパーソードだけに重力軽減操作をかけ、敵を待ち受ける。
(深淵のモノクルと黒龍のターバンだと、オド3つ、俺が不利だ。しかし鑑定は常時アクティブだしなー。取り敢えずやれるところまでやってみますか。)
近づく敵に合わせ、俺から斬りかかっていく。
数合の打ち合い。
明らかに遊ばれているのが、わかる。
そのまま、軽く吹き飛ばされ、一度距離があく。
(ここまで差が出るのか!)
オドの差による身体能力の圧倒的不利。そして、鑑定による認識能力の圧倒的な向上。それは数合打ち合うだけで、隔絶した力量差となって俺と敵の間に横たわっていた。
(どうする、俺。敵はまだスキルを開放していない。さらに差が開く可能性も高い。ここは賭けるしかないのか。)
俺はそっと深淵のモノクルを取り出すと、そのダンジョンの因子を探り始めた。
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