第53話 装備品スキルの本領

 俺は重力加重操作のスキルを解除し、ゆっくりと閉めていた腕をほどく。


 崩れ落ちる俺の姿を模した敵。

 完全に地面に倒れきる前に、その姿が黒い煙へと、ほどけるように変わっていく。

 それは、まるで装備品化のスキルが発動したかのエフェクト。


 しかし、装備品化の時のように煙が一つの姿に結実することはなく、その場で渦巻き始める。


 くるくる、くるくる回る、黒い煙。

 それ自体が尋常ではない何かを感じさせる。


 その渦巻く煙から一条の細い煙が別れて、俺の足元へと向かってくる。


「おっと!」


 思わず跳ねて避ける。しかし追いかけてくる煙。そのまま跳ねた先の俺の足、Gの革靴へと煙が吸い込まれていく。


 革靴の黒光りする表面がゾワゾワッと波うったかと思えば、いきなりピカッと光を放つ。

 思わず目を背けた俺。

 放たれた光は魔法陣の姿を取ると、収束するように縮みながらGの革靴へと吸い込まれて行く。


 魔法陣が収まり光が消えた後、足元をゆっくりと覗きこむと、どうやら革靴に刻印が刻まれている。


「これは、Gの絵かな? ……全体的にダサくないか、これ。」


 革靴の表面には、数匹のGの姿が、刻印される形で描かれていた。

 あまりのセンスのなさに、久しぶりに装備品関係で脱力する俺。


 その俺の目の前で相変わらず渦巻き続けていた黒い煙が人の姿を取り始める。


 煙が腕になり、足になり、ついには完全に人の姿を取ると、徐々に色づいて行く。それは今よりも若い、多分大学生くらいの頃の俺の姿だった。


 その両手にはホッパーソードとカニさんミトン。足元には刻印されしGの革靴。


 ふと自分自身の姿が鏡越しに目に入る。

 俺も、目の前の敵と全く同じ格好をしていた。


「いつの間にか、俺まで若返ってるよ……。さすが不思議空間。まあ、意識の中とか夢の中なら、何でもありか。」


 敵を目の前にして、思わず呑気にそんな事を呟いているのも、目の前の敵がすぐには仕掛けてこないからだった。


(わざわざ呑気な事を言って隙っぽくしてみたけど仕掛けてこないか。様子見してる? それとも?)


 俺がよくよく様子を見てみると、何やら集中しているのはわかる。


「あ、ヤバい。」


 俺がそう呟いたのは決してフラグではなかったと信じたいが、ちょうどそのタイミングで、目の前の敵に変化が現れる。


「装備品のダンジョンの因子を探ってたのか! で、スキルを開放したと。俺が出来るようになったことは出来るって設定、鬼畜過ぎるでしょ……」


 目の前の敵は多分、イド生体変化のスキルの方を開放したのだろう。

 敵の体がぼきぼきと嫌な音を立てたかと思うと、まずその腕が急速に変化し始める。


 ホッパーソードを持つ右腕が、手に持つホッパーソードを取り込みながら膨らみ始める。まるで腕全体が緑色の巨大な刃になったかと思うと、さらにそこから腕が三本に分裂していく。

 分かれる肉と肉の間から、粘液のようなドロリとしたものが滴り、新たに形成された刃を濡らす。


 左腕もカニさんミトンを取り込み、まるで巨大ピンクキャンサーのハサミのように変化していく。


 巨大な四本の腕を支えるように、腹を突き破り、何かがはえてくる。それは、新たに形成される二本の足。ぐにょぐにょと伸びたそれが現れると、そちらに重心を預けるように、敵は前傾姿勢になる。そして、腕以外の全身が膨らむように大きくなっていく。

 元の俺の二倍ぐらいの身長になる敵。


 そこには、歪なバランスの四本腕で、顔だけは俺のままの化け物がこちらを見下ろしていた。


 思わずぶるっと震えながら、俺の口から愚痴がこぼれる。


「あー、これがエナさんが心配していた、俺のバッドエンドの1つの可能性だったりするんだろうなぁ。はぁ、なんて修練だよ。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る