第42話 選択と責任
俺は周囲の警戒を解かないように気を付けながら、ステータスを開く。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)
年齢 24
性別 男
オド 26 (2up)
イド 16 (2up)
装備品
ホッパーソード (スキル イド生体変化)
グランマント (スキル トイボックス)new!
カニさんミトン (スキル 強制酸化)
黒龍のターバン (スキル 飛行)
Gの革靴 (スキル 重力軽減操作)
スキル 装備品化′
召喚潜在化 アクア(ノマド・スライムニア)
魂変容率 0.7%
精神汚染率 0.2%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(理論的に考えて、アクアを喚ぶのが良さそうかな。あいつ、物理攻撃が効く相手なら喜んで殴りかかりそうだし。それに毒とかにも強そうだし。問題は、喚んだときのエナさんの反応だけど……)
何故か、そこまで考えた所で、ブルッと体が震える。俺の野生の勘が、アクアを喚ぶのは最後の手段にしようと訴えかけてくる。
(まずは強制酸化が効くかやってみるか。)
俺は問題の先送りをすることにする。
「エナさん、次の来たら任せて!」
(昔の偉い人は言ってた。時間が解決するっ、てね!)
ちょうど飛び込んできた敵を、敢えて斬る振りでスルー。フェイントをかまし、カニさんミトンで掴みにかかる。
(きたっ!)
うまくミトンに収まる。
俺はここぞとばかりに力を込めて掴む。
むにょっとした感触。球体だと思っていた敵が、力を込めるにつれ、ほぐれるように形を変える。実は芋虫状の体をしていたことが、感触から伝わってくる。
「うげ、気持ち悪い……」
思わず、口にまでのぼる嫌悪感。その僅かな隙。そのタイミングで、もう一体の敵が、俺の足元から飛び出す。カニさんミトンにしたから突き上げるように命中。その衝撃で、強制酸化を発動する前に、掴んでいた敵を思わず離してしまう。
「ああ……」
思わず漏れる声。
「失敗、したのか?」
何故か哀れみの視線を送ってくる江奈。
俺は無言でそっと視線をそらす。
「まあ、敵の形はわかったよ」
江奈のフォローの言葉が逆に痛い。
俺は気を取り直して気合いを入れる。
(後は、鑑定するぐらいだよな……)
俺は思い悩む。魂を犠牲にするか、おのが野生の勘を無視するか。
悩むこと、数瞬。ふと、試しとばかりに、口を開く。
「トイボックス、発動」
俺は、ほとんど試したことのない、新スキルに全てをかける。魂の犠牲も本能の囁きも無視しない、打開の一手を求めて。
俺の言葉に合わせ、目の前に、リボンのされた紙の箱がどこからともなく出現する。
俺が旅の準備に忙しい隙間を縫って、ダンジョンの一層で数回だけ試したこのスキル。所謂ガチャみたいなものだ、と思う。1日1回だけ引ける、ガチャ。何が出るかは完全に運次第。
俺が、固唾を飲んで箱を見守る。地面に落ちた箱のリボンがするするとリボンがひとりでにほどける。ゆっくりと開く。
中から、煙の演出とともに、何か白いものが飛び出してくる。
俺の、腕の中にちょうど飛び込んできたそれは、白いウサギのぬいぐるみだった。
「うさたん、かわいぃ」
俺がスキルに夢中になっている間、一人で敵を対処してくれていた江奈の、小さな呟きが聞こえる。
俺はぬいぐるみを念のため、念入りに確認する。
「うん、ぬいぐるみだな。」
俺はそっと江奈の腕のなかにぬいぐるみを置く。
嬉しそうに綻ぶ江奈の顔。
俺は、バッと振り返り、叫ぶように声をあげる。
「深淵の混沌の先。時の灯りの照らさぬ地に生えし不可触の大樹。そは一葉の雫を母とし、父を持たぬ者よ。」
江奈の綻んでいた顔が、何言っているんだこいつという感じの、じとっとした視線になり始める。
「呼び掛けに応え、鼓動打ちし不定の狭間より顕在せよ。モンスターカード 『アクア』 召喚」
(これでいいんだ。これで。俺は、自分の勘は大したことないって知っている。さあ、アクア、出てこい!)
「あっ、カード、しまいこんだままだ……」
俺が気がついた時には、すでに時遅く。
俺の寝ていた寝室の方から、どたばたという音。次に、何か布が裂けるようなびりびりとした音が、ここまで聞こえてくる。
一瞬の静寂。
ドンッという轟音とともに、俺の寝ていた寝室の扉が、弾け飛ぶ。
歩み出てくる人影。そこには、びりびりに破けたリュックの部品だったものを、少し顔に張り付けたアクアが無表情でこちらを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます