第23話 決着と、手に入れたもの。
(なんだか、ゆっくり落ちてくるな。)
俺はぼーっと巨大スライムが落下する様子を眺める。
単眼鏡を通して見る世界は蒼く色づいている。
極度の疲労と、この世の深淵かと思うほどの情報量を脳にたたきこまれる激痛に晒され続けながら、なおもここまで戦い続けた。
結果、生への渇望と無意識の防衛本能で、感情も理性も手放してしまう。俺は、ただ闘争の本能に身を任せている状態に陥っていた。
頭のギアが、一段早くなっているのがわかる。すべてがスローモーションに見えてしまう。
そのスローモーションの世界を、僅かに残る理性が俯瞰する視点となって認識する。
それは蒼色の単眼鏡により多次元的に拡張された現実として、俺に押し寄せる。
何故か見えていないはずの所まで詳細に『ミエ』てしまう。
当然、脳の視覚野が焼ききれんばかりにひりつく。みしみしと悲鳴を上げる俺の脳みそ。
それすらも『ミテ』とり、どこか他人事のようにふわふわと浮遊する意識がそれを俯瞰する。
巨大スライムはここでようやく大地に落ち、すぐに俺を飲み込もうと、その粘体を伸ばしてくる。
技巧も意思すらも希薄な、ただの濁流といってもよい攻撃。
圧倒的なまでの質量が唯一それを脅威たらしめている、力ずくの攻撃。
俺は俯瞰する意識で、その全てを『ミテ』とり、押し寄せる粘体の要となるポイントに、次々にカニさんミトンで触れていく。
無駄に巨大なだけあり、要となるポイントも無数にあるが、所詮全てがスローモーションに動く世界のこと。
俺は慌てることなく、一つ、また一つ、強制酸化でポイントを破壊していく。
(パズルみたいで面白いかも)
押し寄せる巨大な津波のような粘体の、奥に位置するポイントに触れるために。手前から順番に、そして動くポイントを効率よく最小限の動きで済むように、破壊していく。
足取りは軽やかに。要を破壊する左手は繊細に。
端から見ればそれは、まるで舞いのように見えることだろう。不浄な粘体を破壊する死の舞いのように。
そうして、ついに海と言っても過言ではなかったスライムの粘体も、残り僅かとなる。
最後の残された要となるポイントに、手を伸ばす。
スライムはそこまで体を削られ、矮小になっても全く意に介していないのか、変わらぬ様子で補食しようと迫ってくる。
しかし、そんな最後の足掻きも虚しく、俺の強制酸化が発動する。
飛び散る粘液。
ボタボタという音だけが響く中、一枚のカードが出現する。
それは最後の強制酸化を発動した瞬間に要となるポイントから、突然現れた。
反射的につかみとる。
カードは一面の蒼色で、塗りつぶされていた。
俺の精神はそこで限界を迎える。何とか単眼鏡を外すと、服が濡れるのも構わず、粘液まみれの地面へと座り込んだ。
どれくらいそうしていたことだろう。ようやく気力が僅かばかり回復した俺は、重力が軽減されているはずなのに重い体を何とか持ち上げる。
ゆっくり辺りを見回すと、辺りは蒼一色の惨状。
何より臭いがきつい。
俺は一度、最初の骸骨がいた部屋に戻れないか試みる。
ドアがあったところを弱った体で必死に探る。
指先に僅かな取っ掛かりを感じる。
慎重にそれを押し込むと、ドアが開いた。
俺は倒れ込むように、最初の部屋に入ると、体の汚れもそのままに、意識を失い、眠り込んでしまった。
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