第16話 発動
俺はその後もイエロースラッグの討伐を続けた。
慣れてくるとツインテールウィップもなかなか便利だ。特に届かない場所にへばりついているイエロースラッグを叩けるので効率がいい。
もしこれがなかったら今日の討伐数は三割以下だっただろう。
まあ、まだまだ外す方が多いのだが。
ほとんど動かないイエロースラッグでこれだと、動く敵に当たるのはいつになるかわからないな。
そんなこんなで、俺は半日で20匹を超えるイエロースラッグを討伐しその魔石と肉を手に入れることに成功した。
持ってきたリュックはほとんど肉でパンパンになっている。
今はホクホク顔でお昼ご飯中である。
お昼ご飯はコンビニで調達してきたサンドイッチだ。今日は贅沢に缶コーヒーで流し込む。
いつもは使い古しのペットボトルにネカフェで入れた水なのだが。集中力の維持のためには、カフェインは必須なのだと自分への言い訳をする。
さて、今日の稼ぎだが、肉の状態にも依るが、魔石と肉セットで500~700円ぐらいで買い取りのはずなので、半日で一万円は超えるのは確実だ。
ソードグラスホッパーに比べると確かに落ちるが、Gとは比べ物にならない稼ぎだ。
特に半日空くのが素晴らしい。
俺はこのあと、一層に戻りやりたいことがあったのだ。
そう、スキルの検証だ。もともとイド生体変化と、強制酸化にはまだまだ可能性があるのではと、ネカフェに帰ってからもずっと考えていた。
今はさらに、謎のMCドロップ率UPスキルを調べると言う楽しみもできた。しばらくは午前中はイエロースラッグを狩り、午後は楽しい楽しい検証作業の予定だ。
サンドイッチを食べ終わった俺はさっそく一層に戻ることにする。
スマホで最短経路を検索。
あとはイエロースラッグに気を付けながら帰還するだけ。奴等は足は本当に遅いので、例え遭遇しても今のように荷物が多いときは、触角の攻撃をかわして走って逃げるのもさほど難しくはない。
歩いていると、壁にへばりつくイエロースラッグを発見。こんなときに限って、立って手が届くような高さにへばりついている。
しかし、倒しても荷物がいっぱいなので、そのまま走り抜ける。
俺が走るのに合わせて横薙ぎに振るわれる触角の鞭。
俺は重力軽減操作の恩恵を最大限生かして、前方宙返りでかわしてそのまま走り去る。
その後も何度かイエロースラッグに遭遇するが、無事に逃げ続け第1層に戻る扉まで帰ってきた。
「これで一息つけるな。初めての本格的な探索だったけど、これって大成功だよね。」
俺はどこか浮かれた気分で、枠が大きくなった瞬間を見計らって扉に足を踏み入れる。
体がちょうど半分扉を通りすぎた時だった。突然、真っ暗な扉の枠の中の闇が、溢れだす。同時に枠がどんどん狭まり始める。
半身を扉の中にすでに入れていた俺は、溢れだした闇に捕らわれ強引に扉の中へと引きずり込まれていく。
物質的な実体を持たないはずの闇が、体に巻き付き、覆っていく。それは、確かな強制力を持って俺の体を固定し、動きを封じられてしまう。
あまりに突然の出来事に、何も考えられず、なすがままに束縛され、引きずり込まれていく俺。体に巻き付いた闇が、あっという間に顔まで覆い尽くす。
目が、耳がきかない。あっという間に無音の闇のなかに、全ての感覚が囚われてしまう。
完全に俺の体を取り込んだ枠の中の闇は、そのまま扉の中へと戻る。枠もどんどんと狭まり、最後は捩るように扉自体が消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます