【二巻発売決定】ネカフェ住まいの底辺冒険者

御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売

第一章

第1話 初スキル

「あー、腹へった。体が重い。」


 底辺冒険者の俺は、今日のダンジョンの稼ぎを握りしめる。

 1日ダンジョンに入って稼いだ1500円。


 これが今の全財産だ。


 あとは片手に下げた紙袋。この中に俺のすべての荷物が詰まっている。僅かな着替え。冒険者として最低限以下の装備。唯一身分を保証してくれる冒険者証。そして、ぼろぼろの歯ブラシ。


「今日は、何とかネカフェに泊まれる。野宿は辛いからな。」


 俺は握りしめたお金を再び数えながら独り言を言う。


「200円は貯めとく。これは絶対だ。でだ、オープン席ならナイトパック900円。飯は豪華に牛丼、行ける。個室のリクライニング席なら1100円。コンビニで、おにぎりだな。」


 俺は大いに悩む。今日いちで悩む。悩む俺を苛む空腹感。


「決めた、牛丼だ。今の俺には肉が必要だっ。」


 そうと決めたら、さっそく俺は牛丼屋に向かう。


「肉、肉~。」


 牛丼屋に着き、どかりと座って牛丼並み汁だくを注文する。


 店内では皆、黙々と牛丼を掻きこみ、テレビのナレーターの声だけが響く。


『1900年代初頭、世界中に突然ダンジョンが現れました。それから100年と少し。

 モンスターの住むダンジョンに潜り、様々な物を持ち帰る冒険者の仕事は、命の危険のある反面、富を、夢を追い求める志願者は絶えません。誰でも挑戦できる仕事なのです。また、ダンジョンの内部でのみ発現する魔法やスキルの存在、オドと呼ばれる……』


 俺も牛丼を掻き込みながらテレビを聞き流す。その時、俺の頭の中は1日ぶりの食事でいっぱいだった。

 一噛みごとに染み出る肉汁。安い肉なのだろう、実際には化学調味料まみれのそれが、空腹も相まって俺には福音のごときご馳走に感じられた。


 一度レールから外れてしまえば転落するしかないこの社会で、最後に行き着くのが冒険者の仕事である。


 俺も何とか新卒で就職した会社が、残念なことにブラック。

 すぐさま辞めた。そして転職に駆けずりまわった。


 しかし、第二新卒の狭き門をくぐれず、いつの間にか半ホームレスの冒険者になるのは、あっという間のことだった。スマホが止まり住所を失うとアルバイトすら出来なくなった。そんな状態で、唯一出来る仕事が冒険者だった。そして始まった数年前までは想像もしていなかった生活。


 俺は食べ終わり、店を出る。


「そういや、これ貰ったな。」


 俺は牛丼のお金を払うときに貰った商店街の福引券を取り出す。


「ネカフェ帰る途中だし、やってくか。」


 商店街の片隅でテントを張っている会場に着くと、俺は福引券をもち、列に並ぶ。


 すぐに俺の番になり、がらがらを回す。

 ティッシュ1つでも、買うのを躊躇する今の俺にはありがたい。

 ゆっくりと回転させた、がらがらからコロンと出る玉。

 出てきたのは、白の玉。


「おめでとうございます~。特別賞ランダムスキルオーブです。」


 係りのおっちゃんが、からんからんと鳴らしながら俺の方に箱を出してくる。


 俺はごくりと喉をならして、慎重に箱を手にとる。


(やった!スキルオーブだ!これでもしすごいスキルを覚えたら一流冒険者の仲間入りかも?!)


 俺は箱を開け、手に触れたオーブをそっと掴み出す。


 おっちゃんが話している。


「知ってると思うけど、そのオーブ、割れば使えるから。」


 俺は不安と期待を胸に、ネカフェに向かう。


(ランダムスキルオーブって、言葉通りランダムで一つスキルが手に入るんだよな。)


 俺はネカフェでオープン席のナイトパックを頼むと、席に着く。

 紙袋を足元に置いて、さっそくネットで調べる。


 ランダムスキルオーブを試した体験談が色々出てくる。


「なになに、あー、うん。だよねー。」


 一通り調べて、椅子の背もたれに寄りかかりながら考える。


(最大のネックは取得できるスキルの数が一人一個~三個しかないってことだよな。俺はまだ一個もスキルがない。もしランダムスキルオーブで地雷スキルきたら。しかも一個しかスキルを覚えられない体質だったら、完全に詰む。一生底辺確定だよね。)


 俺はランダムスキルオーブを箱から取り出して眺める。


(でも、このままじゃあ何も変わらない。)


 ひとまず明日にしようとオーブを箱に戻そうとして手が滑る。


「やばっ」


 つるんと手から離れたオーブが床に落ちる。


 からんからん。


「あ、あぶねー。割らなくて良かった。」


 急いで立ち上がってオーブに手を伸ばす。


「あっ」


 足元に荷物を置いていたことをすっかり忘れていた俺。当然足が引っ掛かる。

 そのまま倒れ込む。


 パリン。


 軽い音と共に、ランダムスキルオーブが俺の下敷きになって割れた。



 俺は翌朝、朝食がわりのネカフェのドリンクバーで腹を満たし、ダンジョンに来ていた。

 昨日、不本意にも得てしまったスキルをこれから調べる。


 ダンジョンに入り、最初の広場の隅に向かう。


「ダンジョンのなかじゃないとステータス見られないのは面倒だよな。」


 俺は内心ドキドキしながら、ステータスオープンと念じる。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 氏名 朽木 竜胆(クチキ リンドウ)

 年齢 24

 性別 男

 オド 16

 イド 7


 装備品 

 なた 

 革のジャケット 

 なし

 なし

 なし


 スキル 装備品化′

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 いつものステータスに、スキルが加わっていた。


「スキルは、装備品化か。確か、敵を倒したときに、装備品が出やすくなるスキルだったような。そんなに悪くない?」


 俺は喜んでいいか、微妙なところで迷いながらも、今日の稼ぎのために、そのままダンジョンで働き始める。


 1日ダンジョンで働いた俺は、今日の稼ぎを手にネカフェに急いで帰ってきた。今日は1日、頭の中は手に入れたスキルでいっぱいだった。

 しかし、そのせいで気が散っていたのだろう。今日の稼ぎは、オープン席のナイトパックギリギリしかない。

 昨日の貯金200円で買ったおにぎりを食べながら、さっそく装備品化のスキルをネットで調べる。


 ウォキペディアに載っている文字を読む。


「何々、このスキルを持つものが格下のモンスターを倒した際にごく稀にモンスターが装備品になるスキル。……やっぱりな。ダンジョンでのみ発現する限定スキル、か。」


 俺は記事を読み進める。


「セカンドスキル、サードスキルとして収入の足しに取る冒険者もいるが、マイナー。」


 俺は記事を読むのを止めると、椅子にもたれ掛かって考える。


(攻撃スキルじゃないから、ファーストスキルにする奴は当然いないよな。悪くはないけど微妙だ。さすがに商店街の福引きでそんな強スキルは手に入らないか。明日はモンスターを倒してみるか。何ヵ月ぶりだろうな……。)


 俺はそのまま、その日もネカフェのオープン席で眠りに落ちた。

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