雨と少女
藤杜錬
雨と少女
「今日もまた雨が降ってて、嫌になるね」
少女は机の前にある窓から空を見上げて呟いた。
「いつもこの時期は気持ちも滅入るし、折角の日曜日だって言うのに……」
そう言って少女は立ち上がりゆっくりとベッドに向かって歩き出そうとする。
少女が立ち上がったところで机の上に置いてあった、スマートフォンからメッセージが届いた事を知らせる通知音が響いた。
少女はスマートフォンを手に取り、いましがた届いたメッセージを確認する。
メッセージを確認した少女は大きくため息をついた。
そこには友達から今日の買い物の予定を急に家族との予定が入ったので、キャンセルしたいという内容が書かれていたのだった。
「急な予定じゃ、仕方ないよね」
少女はため息をつきながら、友達に「了解、また今度ね」と返信を返す。
「これじゃ気晴らしもできないね……」
少女はそう呟き、ベッドに倒れ込み枕を抱きしめる。
「まったく誰よ、梅雨なんて季節作ったのは……神様?」
少女は落ち込む気持ちのやり場が見つからず、ついそんなどうしようもない事を呟き、抱きしめていた枕を天井に向かって投げつけた。
天井に勢いよくぶつかった枕はそのままの勢いで少女の頭にぶつかる。
「痛っ、そりゃ投げたら落ちてくるよね……」
そんな当然の事を新しい事でも発見したかのような気持ちで少女は考えていた。
少女は気がつくと、笑いがどこからかこみ上げてくる。
「ああ、もう何をやってるんだろ、私は……」
少女はそう言って立ち上がる。
そして部屋の扉の先から、猫の鳴き声が聞こえてくる。
「ああ、そっか、ご飯が欲しいの?今行くよ」
少女は、猫の要望を満たすために部屋を出る。
「ただいま、凄い雨ね」
少女が部屋を出ると玄関に買い物に出かけていた母親が帰って来る。
「お帰りなさい、お母さん」
少女は母親に出迎えの言葉を掛ける。
「あら?今日は友達と買い物に行くんじゃなかったの?」
買い物に出かけると伝えていたので、少女が家にいる事には親は驚いていた。
「それが今日の予定、友達の都合でキャンセルになっちゃった。本当、雨って嫌だよね」
つまらなさそうにしている少女に母親は、くすりと微笑む。
「それがそうでもないわよ。駅前の洋菓子屋さんで雨の日セールでケーキが安くしてたからつい買って来ちゃったの、折角だから二人でアフタヌーンティーと洒落込みましょう?」
ケーキの入った小さな箱を見せながらの母親の提案に少女の気持ちも少し晴れる。
「それは良いね。そういう事ならこういう雨も大歓迎なんだけどな」
少女は先程までとはうって変わり明るくそう返した。
「それじゃ私はお茶の準備をするね」
少女は母親にそう言ってキッチンに向かおうとする。
そして、少女の足元では三毛猫が自分の事も忘れないで欲しいと小さく「にゃあ」と鳴いたのだった。
了
雨と少女 藤杜錬 @fujimoriren
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