クレイジージャンケン

上条海輝

第1話クレージージャンケン

7月8日、七夕が終わった7月なんて残りカスだと思う。

 そんなアホな事を考えながら俺、忍は学校に向かう。

 「暑い」

 7月に入ったばかりだというのに異様に暑い、天気予報では三十度を超えると言っていたのに、これから向かう先はむさ苦しい男子校である。

 憂鬱な気持ちになりながら、学校に着き教室の扉を開けると全員が殺気だって待っていた。

 「お前ら出向かえご苦労、何かあったのか?」

 そう聞くと、バカの中のバカ、バカチャンピオンの歩が、

 「俺の心は、今の空の様に曇っている」

 「いや、めちゃくちゃ快晴ですけど」

 「なぜだか分かるか?」

 「わかんねーよ、お前がバカという事以外わかんねーよ」

 「昨日の七夕祭で、お前が女と一緒に歩いているのを見たんだが」

 ああ、なるほどそれで全員殺気だってたって訳か。

 「いや、あれは」と俺が言いかけると歩が、

 「彼女か彼女なのか、まさか許婚とか言い出すんじゃないだろうな!」

 エロゲのやりすぎで頭がおかしくなったのかこいつ。

 「いや、なんで許婚が出てくるんだよ!いねーよ彼女も許婚も・・・まあ、二次元には沢山いますけど」

 言ってて悲しくなってくるな。

 「じゃあ、誰なんだよこの子は!」

 今にも殴りかかってきそうな歩、他のみんなも同じだ。

 「妹」と一言だけ俺が言うと、

 「うそつけ、お前の妹があんなに可愛いわけがない!百歩譲って義妹だろ!」

 また、歩がバカな事を言ってきた。

 「お前のそのエロゲ脳どうにかしろ!似てなくて悪かったな、実の妹だ」

 「マジ?」

 「マジだ」

 教室が静まりかえる。

 さっきまでの全員の殺気が哀れみに変わる。

 やだな、この空気。

 その静寂を打ち破る様に歩が、

 「全員解散!」

 すると全員席に戻っていった。

 「悪かったな、忍」と歩が仲直りの握手を求めてきた。

 「いや、いいよ」とそれに応じる。

 立場が逆だったら、俺はお前を殺してると思うし。

 なんかいいな青春ぽくて。

 「ただな、お前がその後数人の女子と一緒にいる所も見たんだが」

 友情の握手が鎖に変わる。

 いつのまにか、全員の殺気も戻っている。

 「い、いや、妹の友達と一緒に回っただけだ、深い意味はない」

 焦る俺、今にも殺されそうだ。

 「ま、待て、落ち着けお前ら、ほら見ろ先生が来てるぞ」

 助けを求めて先生の方を見る。

 「えー、今日は特に連絡する事がないので好きにしていいぞ、何か質問のあるやついるか?」

「質問です、何で先生になれたんですか?」

 「質問がない様なのでホームルームを終了する。俺は立場上手伝えないが、俺の分までよろしく。」と言って教室から出ってしまった。

 無視したあげく、俺の事を見捨てやがった。

 さては昨日の見合いに失敗したな、三十路手前で焦りやがって。

 そんな事をしていると全員を代表して歩が出て、

 「決着をつけようじゃないか」と主人公面して言ってきた。

 「こないだ返り討ちにしてやったの忘れたか?」

 「お前にやられたのなんて、電車に轢かれた様なもんだ」

 「いやそれ、大事故だぞ!」

 「俺に勝とうなんて百万光年はやいわ!」

 と、負けている分際でドヤ顔で言ってくる歩。

 ふむ、ここは一つあのドヤ顔をへし折ってやるか。

 「ここで一つ雑学だが、何光年っていうのは時間の単位じゃなくて距離の単位だぞ」

 ドヤ顔が羞恥心で染まる。

 やっぱバカだこいつ。

 教室が静かになる。

 「いくぜ」

 「こい!」

 「「最初はグー」」

 「「「ジャンケンかよ⁉」」」

 と全員ツッコミを入れてくる。

 「何だお前ら、男と男の真剣勝負に邪魔するんじゃないよ。何、まさかお前ら俺らが殴り合いとかすると思ってたわけ?そんな事したら停学になちゃうだろ」と呆れて言う俺。

 まったく最近の若者はすぐ暴力に訴えようとする、それだからキレる十代とか言われるんだよ」と十代真ん中の歩が言う。

 全員の冷たい目が痛い。

 「じゃあ気を取り治していくぜ、言っとくが俺はチョキを出すぜ」

 「き、きたねーぞ、心理戦に持ち込むなんて」と焦る歩。

「ジャンケン――」と問答無用に始める俺。

 「「ポン」」

 俺がチョキ、歩がパーである。

 「クソ、逆を読んでパーを出したのに何でわっかた?」

 「お前の頭がパーだからだよ」

 「なるほどうまいな――じゃねーよ、ひどいなお前!」

 俺が勝った事により昨日の事はお咎めなしになった。

 これだけやってまだホームルームが終わっただけである。

 「バカばっかだな」

                             上条 海輝

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クレイジージャンケン 上条海輝 @kaiki730

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