明日1時に駅前で

【お世話になりました】そうま

なりふり構わず独り占め

 テスト最終日の金曜日、耳に入ってくる話し声を聞く限りクラスの大体の人は街へ遊びに行くらしい。高校2年なんて1番遊べる時期だもんな、もうすぐ夏休みだし浮かれるよな、そんなことを思いながら1人図書室に足を運んだ。


 図書室のドアについている小さな四角窓、そこから見えるいつもの姿。今日もあの人はカウンターに居た。左手で頬杖をつきながら文庫本を読み進めている。ブックカバーをしていて、中身はいつも分からない。

 この四角窓からあの人を見てキャーキャー言うのが最近の女子たちの流行り。誰かがあの人をかっこいいと言い出して、みんな覗きに来るようになった。覗きに来る子は可愛い子ばかりだ。四角の中のものを見つめる女子たちの姿はテレビを見ているみたいで、彼女たちはあの人をどこかアイドルのように見ているのかもしれない。


「返却お願いします」

 今日は私とこの人以外は誰も居ない。女子たちはテスト終わりにまで覗きに来なかったようで少しほっとするが、ほとんど人が居ない校内は静か過ぎて、どこか落ち着かない。なんでこんな時に限って沢山返す本があるんだろう。

「あの、いつも何を読んでるんですか」

「ラノベが多いですかね、今は明日から公開される映画の原作を読み直してます」

「あの、その本は図書室にもありますか?」

「入れてるはずですね、ラノベはここ数年で蔵書増やしたと先生から聞いてるので」

 そう言って彼は脇に置いてあったパソコンを慣れた手つきで操作し始める。そしてあることが分かるとすぐに取って来てくれた。ラノベ、言葉は聞いたことあるけど読んだことは無い。恥ずかしいことを隠すつもりがこんなことになるなんて。


「明日、観に行くつもりだったんですけど良ければ一緒にどうですか?」

「いや、か、彼女に怒られたりとか」

「今まで彼女居たことないのでご心配なく。それに、ずっと貴女とは話してみたいと思っていました」

 にっこり笑うこの人に、私はなんて返答すればいいのかと狼狽える。沢山話してる、存在を認識されてた、嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちで心がグチャグチャになる。でも、この人は最近覗きに来てる女子たちと私が同類だと思ってるのかもしれない。こんな風に話しかけてたら、貴方に関心がありますと言ってるようなものだ。

「困らせてごめんなさい。同じ学年で頻繁に図書室を利用する人は貴女しか居ませんから、名前と顔を覚えてしまってたんです。最近女性利用者は増えましたが、メディア化作品くらいしか借りませんし」

 彼は少し寂しそうな顔をする。思ってたリアクションと違って拍子抜けする。

「あの、最近窓からキャーキャー言ってる女性たちは気がついてましたか?」

「ええ、普段利用しない人からすると図書室って入りにくいですよね。室温保持の関係でドアを開けておくことは厳しいですし、静かにしてないとダメって言うのが堅苦しく感じるでしょうし」

 ……この人、自分がかっこいいと言われてることに気がついていない。気がついたら可愛い子にアピールしに行くのでは? これは、今を逃したら他の人に取られてしまう?


「長々と失礼しました。話を戻しますが、明日逢って貰えますか?」

 明日逢ってた所を見られたら、明日告白して付き合えたら、女子たちから何か嫌味を言われるだろうか。可愛くもないのにとか、身の程知らずだとか、言われるのだろうか。でも、誰かに取られてしまうのは嫌だ。それなら嫌味に耐える方がマシだ。この人をなりふり構わず独り占めにしたい。


「じゃあ、明日1時に駅前で」

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