捕縛
シャナンとシルバが深刻な話をしている傍でオリアンヌは意識を取り戻す。先ほどまで深い泥濘に囚われた感覚は既に無く、深い眠りから覚めたかの様に思考がスッキリしてくる感覚を覚える。
「……シャナン様、一体何が…」
「オリアンヌ!良かった。元気になったね」
「は、はぁ……!ッシャナン様、後ろに下がってください」
「え?どうしたの?」
オリアンヌがシルバを見て身構える。無理もないことだ。先ほどまで敵方にいた男が目の前にいるのだ。心安らかに応じるわけにもいかない。
「オ、オリアンヌ。シルバはもう敵じゃないよ。私たち、友達になったんだよ」
「友達…?」
オリアンヌが理解できないと言った表情を見せる。シルバも苦笑を禁じ得ない。
「……友達、か。そうだな、シャナンの言う通りだ。俺は負けた。だから、勇者の言うことには従うことにしたのさ。シャナンが友達と言うからには、俺はシャナンの友達なんだろう」
「な、なにが何やら…?」
オリアンヌは混乱を加速させる。この少ない時間で事態が大きく変わったことに頭が追いついていなかった。
「安心しろ。俺はもうリフィア盗賊団とは関係ない。元々ただの腰掛けだ。今度はお前たちの味方になってやる」
「…元盗賊の言うことを信用しろと?」
オリアンヌが強い視線で睨みつける。シルバは肩を竦めて首を振る。
「俺は傭兵だ。盗賊家業には手を出していない」
「アッサリ寝返る様な奴を信用しろと?」
「当然の疑いだな。だが、リフィアとの契約では“俺が気に入らなくなったら出て行く”としている。それに、寝返るのではない。友達だから手伝ってやるまでだ」
「だとしても、そんな言葉に……」
その時、オリアンヌが反論を遮り、盗賊の一人が大きな声を上げて広間に駆けて来た。
「シ、シルバさん!至急来てくれ!侵入者の奴ら、罠を逆手にとって……あ!?お前、昼間のガキ!?」
盗賊がシャナンを見て驚天動地の顔を見せる。昼間戦った化物少女が目の前にいるのだ。驚くのも無理はない。
盗賊はシャナンの近くに立つシルバに顔を向け、強く警告を発した。
「シ、シルバさん!こ、このガキはヤバイですよ。剣が効かないんです」
「知っている」
「し、知ってる?ってなんですか!?」
「先ほど、俺はコイツに負けたからな。身をもって体感済みだ」
用心棒のシルバが負けた?盗賊の頭が混乱を来す。一体どう言うことだ。何故負けたのに、二人して一緒にいるのだ。
シャナンとシルバの顔を交互に見る盗賊に対し、シルバが冷や水の如き言葉を投げ掛ける。
「そう言うことで、俺はコイツらにつく。悪いが契約は終わりだ」
盗賊の目が見開かれる。やっと状況を理解したのだろう。盗賊は最悪の場面に立ち会ってしまったと、足を一歩後退する。
その隙をシルバは見逃さなかった。
「遅い!」
何やら手から青白い光を放ち、盗賊を斬り捨てた。あまりの速さに盗賊は何も理解できず、その場に倒れ込む。
「し、死んじゃったの?」
シャナンが心配そうにシルバを見る。だが、シルバは首を横に振る。
「気を失っただけだ。俺の召喚魔法“吸命剣”で作り出した剣は相手の体力を奪う。コイツは丸一日は動けはしまい」
「召喚魔法……?じゃあ、あの剣は魔法で作り出した剣なの?」
「そうだ。召喚魔法“
先ほどの戦いで見せた吸命剣は魔法の力だった。シャナンは“こんな魔法もあるんだな”と関心を寄せる。この魔法で作り出した剣ならば、相手を殺さずに済むのではないか、と考えたからだ。
倒れた盗賊を見て、オリアンヌが事態を察する。状況は分からないが、侵入者とはフレッドたち王国の兵士と見て間違いない。しかも盗賊の切羽詰まった状況からすると、侵入者側に有利に働いていると考えられた。
大方の察しを付けたオリアンヌがシャナンに声を掛ける。
「シャナン様。侵入者とはフレッドたちですね。今の状況を見た限り、善戦している模様です。急いで加勢しましょう」
「そうだね。悪い人たちを何とかしよう」
「あと、そこのお前!……えと」
「シルバだ。何か用か?」
「シルバ、私たちを手伝いなさい。そうすれば、アナタは協力者として赦免します」
オリアンヌの命令口調にシルバが呆れた顔を見せて反論する。
「なぜ俺が裁かれるのだ?もう盗賊団には関わりがない。それに、お前の命令など受けん。シャナンのお願いならば、聞いてやらんでもないがな」
「黙りなさい。今は違っても、かつては盗賊団に籍を置いた身…抜けたからと言って赦されると思うな」
「……全く、なんなんだ、コイツは」
シルバが頭を抱えて疲れた表情を見せる。ヤケに律儀なことを言う奴だと内心舌を巻いた。
二人のやり取りを見かねたシャナンが少し困った表情でシルバに話し掛ける。
「ねぇ、シルバ。お願い。私たちを助けて。お願いならば、聞いてくれるんだよね?」
「……そうだな。勇者の頼みとあっては断る道理がない」
「決まりね。では、シャナン様。急ぎ加勢しましょう」
兎も角意見が一致した三人は急いでフレッドたちの救援に向かった。
─
──
───
「シャナン様がオリアンヌ隊長を救出するまで持ち堪えろ」
瓦礫で作った簡易陣地でフレッドが指揮を執る。王国の兵士たちは盗賊たちより数段高い位置に陣取り、応戦していた。
「ゴっさん。ありゃ面倒だぞ。罠に引っ掛かったと思ったら、俺たちが罠に掛かった様なもんじゃないのか?」
「全くだぜ、団長よぉ。くそ、わざと罠に引っ掛かったフリして、俺たちを誘き寄せるなんて、ただの侵入者じゃねぇな」
「まあ、もうすぐシルバが来るからよ。それでアイツらはお終いよ」
二人は下衆な笑い声を発する。周りの盗賊たちも攻めることを諦めたのか、シルバの到着を待ち、攻撃の手を止めていた。
フレッドは盗賊たちが責めて来ない状況を見て、うまく時間稼ぎができたな、と感じていた。
「いいぞ。アイツら。このまま時間を稼げば、シャナン様がオリアンヌ隊長を……」
「フレッド副長!アレを!」
フレッドの独り言が言い終わるかしない内に、兵士の一人が暗がりの先を指差した。フレッドはシャナンがオリアンヌを助けた後、救援に来てくれたと思い、期待で顔を上げた。
だが……
「おお。シルバの旦那。待ち侘びたぜ」
リフィアの愉快そうな声とは逆にフレッドからは絶望に満ちた声が漏れる。
「な、なんで……あの男が?もしやシャナン様が…」
兵士たちにも動揺の色が走る。なぜあの男がこの場にいるのだ。
対して、リフィアたちは“待ってました”とばかりに歓声が上がる。
「シルバ、頼んだぜ。アイツら、面倒臭くてかなわねぇ」
「そうか。だがな、リフィア。俺はお前たちに別れを告げに来たんだ」
「あん!?」
突然のことにリフィアは理解できない声を上げる。一体全体どう言うことだ?
混乱するリフィアを無視して、シルバが話を続ける。
「この状況を見れば分かるだろう。オイ、お前たち」
暗がりからシャナンとオリアンヌが現れた。リフィアは突如現れたオリアンヌを見て、驚愕を覚える。広間で縛り上げていたオリアンヌが何故ここにいる?まさか、シルバが裏切ったのか?リフィアの混乱は加速する。
だが、リフィア以上に驚いたのはゴメスだった。昼間対峙した化物少女が目の前にいるのである。自身のスキル“剛剣”で倒したと思っていたが、傷一つない。ゴメスは滝の様な汗が流れた。
その時、リフィアとゴメスの動揺の隙を突いてオリアンヌが手を掲げる。そして声を張り上げてフレッドたちに号令した。
「フレッド副長!挟み撃ちよ。突撃せよ!」
突然のオリアンヌの登場と号令で
「な、な、何!?や、ヤベェ!」
ゴメスが状況の悪さから、この場を逃げようとする。対して、リフィアはゴメスを制止し、怒鳴りつけた。
「て、テメェ!ゴッさん、逃げんな!目の前の三人を倒した後で突っ込んでくる奴を始末すればいいだけだろ!むしろ、好都合だろうが!」
「何言ってやがる、リフィア団長よ!目の前にいるシルバに勝てるってのか!?それ以前にあの化物もいるんだ!生命あっての物種だ。俺は逃げるぜ」
「お、おい、待てよ!」
ゴメス含めた盗賊たちが蜘蛛の子を散らすかの様に逃げていった。ただ一人取り残されたリフィアは呆然とその場に立ち尽くしていた。
「お、俺の…盗賊団が……なんて薄情な奴らなんだ」
なす術もなく佇むリフィアに、オリアンヌがポンと肩に手を乗せる。
「仲間に恵まれなくて残念ね。さ、アナタには縛り首が待ってるわよ」
引きつった笑みを浮かべたリフィアを兵士たちは雁字搦めに縛り上げてしまった。
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