突入

「あん?アイツ、どこ行った?」


 もう一人の盗賊が訝しがる。先ほどまでそこに居た仲間がいないのだ。


「全く、クソでもしに行ったのか?一言くらい…ぃいいいぃい?」


 シャナンはもう一人の男も強引に掴み、フレッドたちに投げつける。盗賊は二転三転して転がりながら、夜の闇に消えていった。


「な、何だ?アイツ?」


 櫓にいる盗賊が飛んで行った仲間を見て驚きを表す。その隙にシャナンがジャンプして櫓に飛び移った。


 シャナンの飛び乗った衝撃で、櫓が強く揺れる。突然の揺れに、一体何事かと盗賊は驚き、振り返った。すると、視線の先に手をヒラヒラと振る少女が目に入った。


「げ!お前、昼間の!」


 盗賊は荷馬車を襲撃した一人だった様である。驚きつつも盗賊は弓を射ようと矢を番える。しかし、シャナンは櫓を破壊せんとばかりの勢いで盗賊に飛び掛かり、そのまま盗賊を抱き抱える。


 勢いそのまま、シャナンは盗賊を掴みながら櫓から飛び降りて、地面に着地する。当然ながら、強い衝撃が足に響く。しかし、今のシャナンには何も感じない。だが、盗賊は別だった。


「ぐッッホ……」


 盗賊は鈍い声を出して、白目を剥く。計らずもアルゼンチンバックブリーカーの体勢で地面に着地したため、盗賊にとってはひとたまりもなかった。

 

 盗賊は泡を拭いてピクリとも動かない。

 シャナンは盗賊が死んでしまったのかと思い、焦って頬を叩く。


「大変!起きて!ねぇ、大丈夫!?」


 しかし、今のシャナンの軽い平手はヘビー級ボクサーのジャブに匹敵する。盗賊は強烈な殴打を両頬に数度浴び、意識を取り戻すと同時に懇願する様に詫びを入れる。


「ご、ごべんなざい……もう、ゆるじでくだざい〜〜」


 涙と鼻水を垂らして、戦意喪失した盗賊はその場に崩れ落ちて再び気を失った。“しまった、やり過ぎた”とシャナンは思ったが、結果オーライなので良しとした。


 しかし、何はともあれ、これで入り口の盗賊たちは一掃した。後はアジトに侵入するのみである。


 シャナンは手招きでフレッドたちを引き寄せる。


「シャナン様、流石ですね。あっという間に三人も倒すとは」

「うん。ありがとう。それよりも、早くアジトに入りましょう」

「そうですね。よし、皆んな、行くぞ!」


  フレッドが兵士たちを先導して前に進む。シャナンもその後に続き、歩き始める。若干の空腹を覚えてきたので、荷馬車から持ってきた麻袋から豆菓子を摘んだ。ポリポリと小気味良い音がする。


 兵士たちにも緊張をほぐすためにシャナンは豆菓子を配る。皆一様に緊張した面持ちでいる中、シャナンから手渡しされた豆菓子を受け取り、言い様の無い勇気をもらった。


 自分たちは勇者の加護を受けている。何する者ぞ、我らは勇者の使徒である。兵士の心に失われた勇気が灯った。

 

 これは、精神論だけでなく、シャナンのスキル“明日への希望”でもあった。このスキルにより、兵士たちはいつも以上の能力を発揮できるようになっている。


 そうこうしている内に、フレッド、シャナンそれに王国の兵士たちがアジトの入り口にたどり着く。フレッドは入り口を見て、意見を述べる。


「中は暗いな。だからと言って松明を燃やせば、すぐにバレてしまうな」


 シャナンも入口から中を見て具合を探る。所々に壁にかけた松明の明かりが見えるが、全体的に暗い。この中で自分たちが松明を燃やせば、悪目立ちしてしまうのは自明だった。


 シャナンや兵士たちはどうすべきか考え込む。そんな中、フレッドはブツブツと魔法を唱え始めた。


「世界の理に掛けて、漆黒の闇を照らす眼を我に与えよ……暗視(ダークビジョン)!」


 フレッドが暗視ダークビジョンの魔法を唱えた。この魔法は暗視ゴーグルの様に僅かな光を集めて増幅し、暗闇の中の視界をクリアにする魔法である。


「補助魔法があまり得意ではありませんが……夜襲用に習得した魔法が功を奏しました。シャナン様、参りましょう」

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