スキル”猟奇“
ルサッルカの体が鉛を入れられたかの様に急激に重くなる。頭も思考が定まらない。言い様のない恐怖が押し寄せ、今にも逃げ出したい衝動に駆られた。
「……な、なに……何よ!これ!何したのよ!」
「ジャジャーン。驚いたかしら。私の魔法とスキル。…………だめね、アンタの真似してみたけど、楽しくも何ともないわ」
「い、いいから答えなさい!何したのよ!」
だが、ルサッルカの言葉に意を介さず自身の髪をクルクルと弄りながら少女は話し掛ける。
「今思ったけど、さっきの
的外れの回答に恐怖と気怠さと焦燥感が入り混じった感情に襲われたルサッルカが激情を覚える。身を焦がす怒りと蝕む恐怖に任せて感情的な言葉を返す。
「質問に答えなさい!」
「何怒ってんのよ」
少女はルサッルカの感情を楽しんでいる。それがワザとであると気付いているルサッルカは自身を舐められていると感じると同時に恐怖感も合間ってドロドロのスープの様な感情を伴ってシャナンに怒鳴りつける。
「あ、あ、あああ当たり前でしょ!人の話を聞きなさい!」
「虫だろ、アンタ」
自分勝手に話をする少女にルサッルカが募る怒りと苛立ちを隠せない。いや、本人は気づいていないが、この感情は怒りや苛立ちではない。
恐怖と焦りであった。それも死への……
この感情の出元は一体なんなのか。少しでも状況を理解しないと心が破裂しそうになる。少女からの自分への侮辱に対しても、もはやどうこう考える余裕はない。
言い様のない感情の渦に囚われた脳吸いを見て少女はせせら嗤い、言葉を投げかける。
「一目瞭然だと思うけど……ま、いいわ。言葉で説明してあげる。超越魔法の
「な……何言ってるの?超越魔法?何よそれ?」
アワアワとして次の言葉を繋げようとするルサッルカを見て気怠そうにシャナンが手をヒラヒラする。
「あーもういい、もういい、もういいです。説明が面倒だから、これ以上はもう言わない」
話を強引に打ち切られ、疑問が全く氷解しない。いや、
「ゆ……勇者…確かシャナンとか言ったわね。さっきの
しばしの沈黙が流れる。
ルサッルカの言葉を暫く無視していたが、場の微妙な空気に耐えられなくなったのか、嘆息して少女が応える。
「説明しないって言ったのになー。ま、それくらいは答えてもいいか。アンタ、
シャナンの言葉にルサッルカは驚きを隠せない。
「
ルサッルカは自分の魔法に自信があった。人間風情が使う魔法など大したことがない。先ほどサラに遅れを取ったのは侮って鞭など使ったためだ。最初から魔法で圧倒すれば、
だが、ルサッルカの自信は勇者の前では井の中の蛙に過ぎなかった。ルサッルカの話を遮り嘲笑うかの様に少女が答える。
「私の
「何よそれ!」
レベルが9999!?あり得ない。ルサッルカは信じられない面持ちで少女を見る。如何に高レベルの魔法でもせいぜいレベルが99程度である。桁が二つも違うなど世界の理に掛けて、あってはならないとルサッルカは強く思う。
少女の言葉に
「話は終わり。それよりも、よくもあの子を虐めてくれたわね。私たち十二人は決してアンタを許さない」
「バ、バカにしないで!世界の理に掛けて……
「無駄だって」
輝く光が一瞬だけ瞬きルサッルカを包む。だが、すぐに暗転してルサッルカが放つ魔法は
「な、なんで!なんで効かないのよ!」
「だから言ったじゃない。
少女のトボけた表情にルサッルカは怒りとも絶望とも取れない絶叫を浴びせ掛ける。
「は、早く言ってよ!!!そんなこと!」
「あーごめんごめん……でも、言ったからとして、アンタの運命は変わらないわ。アンタは十二人の一人、”エリカ“様が直々にぶっ殺してあげるわ」
確かに早かろうがこの“エリカ”は自身を殺そうとするに違いない。
ん…………?ルサッルカが疑問を浮かべる。
”エリカ”…………少女はそう名乗った。だが、聞いたことがない名前である。ルサッルカは思い出す。この少女の名前は“シャナン”ではなかったか?聞き間違いだったのだろうか、と。
「あなた……シャナンって言われてなかった?なに、エリカって……?」
「”シャナン“……?ああ、あの娘のことね。あの娘は”ココ“で怯えて震えているわ……アンタ、本当に酷いやつね」
トントンと”エリカ“が胸を叩く。
「何よそれ……何をいってるのよ!”エリカ“って誰よ!」
意味が分からずルサッルカは混乱に拍車が掛かる。不安と恐怖と混乱と怒りが
だが、少女は多くは語ってくれない。
「……それがスキル”猟奇“の力。あの男に殺された十二人の怒りと悲しみは誰にも鎮められない。そう、あの娘以外には……」
淡々とした少女の声が部屋中に響く。
何も分からないし考えたくもない。だが、目の前の相手は訳の分からないスキルや魔法を使う邪悪な勇者である。捕らえることは無理だと感覚でわかる。いや、捕らえるどころか戦闘に勝つことも不可能だ。
しかし、この悪魔の情報は持ち帰らなくてはいけない。魔族、いや我が主人のためにも勇者の存在を知らしめなくてはいけない。そう考えたルサッルカの行動は単純であった。
“逃げる”。ルサッルカは一心不乱に扉へ向けて走り出した。
だが、無情な”エリカ“の声が部屋中にこだました。
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