供回りの面々

 翌日、アスラン達に連れられ、シャナンが城門の入り口に向かう。


 向かった先の城門にはシャナンに同行するため選ばれた四人の兵士たちが既に待っていた。


 その四人をよく知っているシャナンが笑みを浮かべて駆け寄る。


「トーマス、ルディそれにセシルにカタリナ!あなた達がついてきてくれるの?」


 シャナンが嬉しそうに声をあげた。


 この四人はシャナンと時を同じくして王宮に仕え始めた若者達である。それぞれの立場と思いを持ち、“王国の剣とならん”としてその身を捧げた愛国者達であった。


「そうよ。シャナン。これからもよろしくね」

「よろしくお願いします、シャナン」

「うん、こちらこそ!セシルとカタリナ!二人と一緒で嬉しいわ」


 セシルは少しばかり背が高く、背中に弓を背負っていた。対して、カタリナは肉付きのいい体を白いローブで覆い、杖を片手に持っていた。二人はシャナンを見つめ、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「しっかし、シャナンが勇者だなんてなぁ…正直、驚いたぜ、なぁ、トーマス?」


 剣を腰に帯刀した十五、六歳くらいの少年が、傍にいるトーマスと呼ばれる戦士に話しかける。


「私も同感だな。だが、シャナンの頑張りを見れば、今となっては納得できる。そうだろう?ルディ」


 トーマスが話し掛けた少年“ルディ”に言葉を返す。


 彼らは訓練の合間に度々シャナンを目にしていた。兵士たちの訓練とは別に、カインやアベルに個別指導を受け、剣術や馬術に勤しむ少女……


 最初は“どこぞのご貴族のご令嬢”の戯れ程度に思っていた。

 それに、この少女は王か王子のお手つきにするために、王宮に押し付けた可哀想な身の上だとも思っていた。

 王族の“血”を得れば、貴族の発言権も増す。そのために、あのような幼い娘だろうと王の“お手つき”にしようと考える貴族も一定数は存在する。


 その背景を知っている彼らだけに、あどけない少女であるシャナンを見る度に、貴族というモノは業が深いと思っていた。


 だが、時を経るにつれ、“シャナンはどうやら他の後宮連中とは違う”と四人は思い始めた。


 当初、貴族の令嬢が剣術や馬術なんて、とんだお転婆だと思っていた。だが、アベルやカインの命令でシャナンの訓練に付き合わされる機会があり、考えを改めた。


 シャナンが取り組む訓練の度合いは決して貴族の令嬢がお遊びで嗜む程度でなかった。その訓練は非常に実践的で、型通りの剣の舞ではなく如何に相手を殺傷するかという点に特化していた。一同はその訓練でシャナンに度々一本取られ、彼女の底知れなさを肌で感じていた。


 また、その訓練に必死で取り組むシャナンの姿を見て、ご令嬢のお遊びでない“裏の事情”があるのではないか、と感じ始めていた。


 その真の理由を四人が知ったのはシャナンの出立が決まった日のことであった。彼らが訓練に付き合わされた理由はシャナンとの旅を期してなのか分からない。だが、一年を通した親交で四人はシャナンを気に入っていたため、供回りの役目を二つ返事で了承した。


 しかし、彼らが選ばれた理由は“シャナンと親しい”以外の理由もある。それは、他に割ける人員が軍隊内にいないためだ。


 カインやアベルといった隊長格はさておき、王宮の守りに着く兵士たちも皆重要な役割を持っている。勇者のお供に連れ出し、結果、王宮や軍隊が脆弱になったために魔王に滅ぼされては本末転倒だからである。


 また、貴族連中から有志を募る訳にもいかない。目敏い貴族たちに勇者の供回りという大義を与えると、王への発言権が増す可能性がある。シャナンを貴族たちの私服を肥やすために政治利用されては堪らない。


 他にも傭兵や冒険者を雇う方法もあった。だが、まだ力の弱い勇者の存在が漏れてはいけない。魔族たちが一斉にシャナンに襲いかかる可能性があるためである。そのためにも根無し草で、どこぞの馬の骨か分からない傭兵や冒険者を雇うなど論外であった。


 これらの理由から、比較的身軽な四人が選ばれた。だが、彼らは決して“余り物”ではない。むしろ彼らは若い兵士の中でも比較的有望な者たちである。だが、圧倒的に経験が足りない。四人はシャナンと共に成長することを嘱望された将来のある者たちであった。


「トーマス、ルディ、セシル、カタリナ…シャナンを頼んだよ」

「「「「ハッ!殿下。お任せください!」」」」


 四人がアスランに最敬礼で応じた。アスランは軽くうなづき、それから門番に開門を命じる。重い城門が軋む音とともに開かれ、シャナンは彼ら四人との魔王討伐への旅を始める。

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