ダンジョンでの野営
一行は
町で購入した塩漬けした干し肉をサクサクとナイフで切り分け、水を張った鍋につける。塩が程よく抜けると、肉を取り出し、火にかけて湯を沸かす。
フツフツと湯が沸き立つ頃合いに探索で見つけたニリンソウとニラとともに、先ほど塩抜きした肉を鍋に入れ煮詰める。出来上がりのタイミングで味付けとして乾燥ニンニクと乾燥トマトを少々加えて味を整える。
その傍らで飯盒を使い、雑穀をグツグツと炊飯する。穀物は優良な炭水化物である。炭水化物はエネルギーを生み出す重要な栄養素のため、冒険者に限らず運動を生業とする者たちにとって非常に好まれる食材であった。
シャナンは食事ができる様子を楽しげに見つめる。
この異世界は地球によく似た生物や植物があり、シャナンは食事を違和感なく楽しめた。そもそも、栄養があるからといって不味い物を無理して食べる必要はない。人々は家畜でないのである。
心地よくコトコトと音を立てる鍋を見て、この冒険でも美味しいご飯を食べれそうだ、とシャナンは思った。
「さぁて出来たわよ。冒険者時代に良く食べてた干し肉の野草スープよ」
「こちらも炊き上がりました。稗と粟に麦を混ぜた雑穀ごはんです」
全員の皿に盛り付け、食事が始まる。暖かい湯気を立てるスープと具の干し肉、ニラ、ニリンソウを木のスプーンで一気に
「美味しい!美味しいよ!セシル」
「へへーん。そうでしょう?これは私の鉄板料理なの」
「フメーフメーよ、セフィル」
「ルディ、行儀が悪いぞ。口の中に物を入れて喋るな」
「しかし、ルディさんの気持ちも分かります。本当に美味しいですね」
スープと雑穀ごはんを交互に口に入れ、雑穀の甘みのある味にスープの塩味がアクセントを効かせる。皆は一気に平らげ至福の時を迎える。
「ごちそうさまでした。冒険って悪くないね」
「ええ、そうでしょ?シャナン。でも、ここはダンジョンの入り口で余裕があるからしっかり食事ができるのよね。奥に進むほど魔物の襲撃が激しくなるから、食事は干し肉だけとか携行食だけ、なんて場合もあるわ」
大規模な軍隊では駐屯地を魔物の襲撃から守るため、結界魔法を使用し安全な環境を作り出して野営する場合がある。しかし、結界魔法は上位の魔法であり、魔力の消費も激しい。一々野営の度に結界を張れるような能力や余力のある冒険者は殆どいない。そのため、安全に料理できる機会は乏しく、今回のようにキチンと食事できる場合が稀なのである。
「さて、片付けも終わったし寝るか!」
食器を川で軽く洗い流し、背嚢にしまった後、ルディがお気楽に声を出す。
「おいおい、ルディ。何いっている。今から見張り番を決めるんだ。みんな寝てしまったら魔物の襲撃があった場合どうするんだ」
トーマスが呆れ声を漏らす。
「そうよ。如何に入り口付近でも油断しちゃダメ。魔物は昼夜問わず襲ってくるんだから」
「歩哨は体力のある俺とルディ、それにセシルで交互に行うぞ。シャナンとカタリナは体力が少ないから翌日の影響を考えて歩哨は無しだ」
「えー、マジかよ〜」
「体力のある直接戦闘型のクラスは仕方がないわよね。ま、
ブーブー言うルディに少し申し訳ない気持ちとなったシャナンが詫びの一言を告げる。
「あ、あの…ごめんね、ルディ。私が体力なくて…」
「アン?そんなの気にするなってシャナン!子供は十分寝ないと大きくなれねぇぞ」
「そうですよ、シャナン。気にしてはいけません。ルディ、お前は大体不満が多い。シャナンに余計な不安を掛けさせるんじゃない」
「悪りぃな。どうも貴族の末っ子てのは現状の不平不満が多いから、つい口に出ちまうのさ。ま、気にすんな。シャナン。トーマス」
ルディがぶっきら棒に手を挙げて謝罪した。トーマスはルディらしいな、と苦笑いを浮かべて頭をかいた。
─
──
───
シャナンが朝目覚めると既にセシルが朝食を作っていた。昨日採ったニリンソウを軽く煮て塩で味付けし、ライ麦パンに干し肉と一緒に挟んだ簡単なサンドイッチがそこにあった。
「うーん、おはよう。セシル…」
寝ぼけ眼で朝の挨拶を交わす。既にトーマスとカタリナは起きて食事を済ませ、武器の手入れをしていた。テントからはルディのイビキが聞こえる。
「シャナン、ルディを起こしてくれますか。そろそろ食事を取って出発する時間ですので」
トーマスに言われ、シャナンがルディを揺り起こす。低い声を上げ起き上がったルディが口を開けて
「ふぁぁあああぁあ…くそ、深夜に交代して歩哨するものじゃないな。中途半端にしか寝れないから寝た気がしないぜ」
「ルディ、深夜にありがとね。お疲れ様」
「礼には及ばねぇよ。それに本当にお疲れは今からだからな」
「そうだね。今日も冒険、頑張ろうね」
「おう!そうだな」
シャナンを勢いよく持ち上げ、肩車をしてルディがテントから出る。
「わわ、ルディ。危ないよ!」
「俺に任せろ!大丈夫だ」
朝から元気な二人は仲良くサンドイッチを食べる。サンドイッチの美味しさを二人は口々に褒め称えた。
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