初めての魔物退治
ダンジョンに入ると、一行はヒヤリとした感覚に囚われた。外からは分からなかったが、中に入ると何らかの魔力が満ちていることが体感できたためだ。
「何だか嫌な感覚だな」
「ああ、誰かに見られているような…」
「これがダンジョンの雰囲気よ。まあ、慣れよ慣れ!」
「マジかよ…慣れそうも無いな…」
「同感だ…」
「そうかしら?いやー久しぶりでワクワクするわ!」
違和感を感じるルディとトーマスに、久し振りのダンジョンで浮かれているセシルが答える。
人が踏みならした跡を道なりに歩いていると、セラセラと流れる川に出くわした。トーマスが道具屋で購入した地図を見ながら、一行に話しかける。
「地図によると、この辺りだな。町で聞いた情報だと、この川の近くで野営することが多いそうだ」
「そうね。この辺りは魔物も弱いから、ここを
セシルの案に皆同意した。ダンジョンには普通の土地では見られない植物や魔力の結晶体である魔石が見つかることがある。これらは
そのため、ダンジョンでは魔物退治によるレベルアップ以外に、これらの収穫物を手に入れる目的もあるのだ。
と、その時、茂みから何やら物音がした。全員が振り返るとそこにはウネウネと触手を動かす植物が数体うごめいていた。
「イビルプラントよ。奴らの触手と消化液に気をつけて」
「おうよ!」
セシルの忠告を聞いているのかいないのか、ルディが勢いよく飛びだし、触手ごとイビルプラントを両断した。
「“世界に
カタリナが放った炎の魔法がイビルプラント数体を焼き払った。
「ピギャ〜!!」
残ったイビルプラント数体がいきり立ち、放った触手がシャナンに命中する。
「痛い!」
触手が命中してシャナンが倒れ込んだ。
「シャナン!大丈夫か」
イビルプラントとシャナンの間にトーマスが割って入る。
「
カタリナがシャナンの状態を魔法で確認した。体力が2から1に下がっていた。
「シャナン、気をつけて。体力がある内は世界の理の加護で私たちは守られてます。でも、0になると、加護が解けて無防備になってしまいます。その状態で攻撃を受けると最悪の場合、死ぬこともあるんです」
「死……」
突如湧き上がる恐怖にシャナンの動きが止まる。その背中をセシルが強く叩く。
「大丈夫よ!シャナン。貴女はちょっと油断しただけ!貴方なら大丈夫!」
強い励ましにシャナンは勇気付けられた。胸に掛けたタリスマンを握り、強い瞳で前を向く。シャナンとて幼い身ながら一年もの間訓練していたのだ。召喚されたばかりの何も知らない女の子ではないのであった。
「ありがとう!セシル」
シャナンは腰に下げた
“ギャピ!”という音と共にイビルプラントが動きを止める。シャナンは無我夢中で幾度も幾度も突き刺す。その攻撃に耐えきれず、やがてイビルプラントの息の根が止まる。
ふと見ると、茂みにいたイビルプラントは一掃され、魔物の姿は消えていた。初めて魔物を倒した感覚と安堵でシャナンはその場でへたり込んだ。
「やったなぁ!シャナン…痛で!」
駆け寄るルディの頭にトーマスが拳骨を打つける。
「お前な!いきなり前に出て陣形を崩すんじゃない!まずは俺が敵を引きつけ、その隙にお前とセシルが魔物を倒す手はずだっただろ!シャナンは体力が低いから、中衛で取りこぼした魔物を倒す役目なんだ。それをあんなに大勢向かわせて…」
「いやー悪い悪い…ちょっと浮かれちまって…」
「トーマス、私は大丈夫よ。ルディを許してあげて。ルディは頑張ったんだもん」
シャナンが庇ってくれたことで逆にルディがいたたまれなくなった。
「悪りぃ、シャナン。傷、大丈夫か?
触手を受けて腫れ上がった箇所の傷が癒されていく。
体力があり、世界の加護があろうと攻撃を受ければ傷を受ける。この傷は徐々に体力を削り、0になった時点で今度は命を奪うものとなるのだった。
「ルディさん。貴方は剣士でもあり回復役でもある有能な戦士です。このメンバーの要といっても過言ではありません。状況を見て適切な判断をお願いします」
「ぅう、悪かったよ…」
カタリナの、非難ではなく丁寧な忠告がルディを更に責め立てた。
「まあ、初心者にありがちなミスよね。自分は万能だって思って妙にハイになっちゃうもんよ。ま、これで落ち着いたっしょ。次いこ次!」
セシルは呆気らかんと先を促し、探索を続け始めた。
その後、イビルプラント以外にグリーンスライムやワイルドインセクトと呼ばれる魔物を倒し、
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