第74話怪訝な彼女……

 とうとう文化祭の最終日がやってきた。

 結局のところ、俺は橋川が何を考えて何をしようとしているのかまだ分からないでいた……。

 何であいつは俺に教えてくれないのか?

 俺に知られちゃまずい作戦なのか?

 そんなことをずっと考えている。

 俺がうなった声を出していると、隣に座っていた花がちらちらとこちらを見てくる。


「な……なんだよさっきから……」


「それはこっちのセリフよ……。さっきからうるさいのよ、目の前の仕事に集中してちょうだい」

 

 そんなにうるさかったか……?

 まあ橋川の考えていることをいくら考えたところで何かわかるわけじゃないし、花に言われた通り目の前の仕事に集中しよう……。

 今の時刻は午後の三時だ。

 シフトの時間は昨日とは違く、今日は花と同じ時間に組まされている。

 俺は射的の会計をして、隣の花は輪投げの会計の仕事をしている最中だ……。

 今はこんなことやってる場合じゃないのに……本当に何やってんだか……。

 そんなことを思うと、勝手にため息が出る。

 すると花がこっちに顔を向けて。

 

「さっきから……というか最近のあなた、どこかおかしいわよ? いきなりピアノの楽譜渡してくるし……。ついにおつむの寿命が来たの?」


「なんだよおつむの寿命って……」


 呆れながらも、いつも通り意味不明な言葉で俺を罵倒ばとうしてくる花に少しホッとした。

 阿澄と揉めてから何かあるかと思ったが、クラスもこいつも特に変わった様子はない……。

 あれから注意深くクラスを観察しているが、誰かが花の悪口を言っている様子もなければ、花が何かをされているわけでもない。

 いつも通りの生活が続いている。

 俺がぽけーっとして誰も来ないなーっと思っていると、花が思い出しかのようにはっとして喋りだした。


「そういえばあなたから渡された楽譜、もう弾けるようになったわよ」


 そんなことを言ってきた花に、流石と思わずにはいられなかった。

 

「昨日渡したばっかなのにすごいな……」


「まあね。でもあの楽譜、弾き語り用の楽譜だったからさほど難しくはなかったのよ」


「へー」


 俺は楽器について詳しくないのでよくわからないが、多分一日で弾けるようになるなんて相当すごいことなのだろう……。

 花に感心していると、花は続けて『それで?』っと言った。


「どういうことだ?」


「『どういうことだ?』じゃないわよ。あなたが弾いてほしいって言ってきたんじゃない。いつ聴かせてほしいの?」


 そういえばそんな理由で渡した気がする……。

 でも別に俺は花の演奏を聞きたいからあの楽譜を渡したわけじゃないんだよなぁ……。


「えーと……近々?」


「何で疑問形なのよ。ふざけてるの?」


 別にふざけているつもりはない。

 橋川に詳細を聞くまでは具体的なことが言えないだけだ……。

 でもあの楽譜。

 昨日橋川たちのグループが演奏した一曲目の曲だ。

 それに橋川は花に『バンドをやらせる』とか言ってたし、もしかしたら今日弾かせるつもりなのかもしれない。

 でも軽音部でもない花がバンドをするってことが意味わからないし、仮にバンドをやらせたからと言って、花と阿澄の関係が良くなるとも思えない……。

 花が怪訝そうな表情をしているので、適当にはぐらかした……。

 そうこうしているうちに時刻は午後4時になり、俺たちの仕事は終わった。

 そして終わると同時に橋川が教室の外からやって来て。


「ねえ優太。話があるからついてきて」


 っと呼び出された。

 だが俺は、何故橋川から呼び出されたのか、大方察しはついていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る