第53話絶望……

 俺はベッドに入って、一人うずくまっていた。

 どうしたらよかったんだ……。

 あのままあそこから、花の前から逃げ出してしまって良かったのか?

 いいわけがない!

 でも、じゃあどうすればよかったんだ?

 分からない。

 そんなこと分かっていれば、こんなことにはなっていない。

 こんなにも自分を恨んだのは初めてだ。

 息苦しくて、呼吸もままならない。

 悲しさや怒り、いろいろな感情が混ざり合っている。

 

「どうすれば……」


 俺が花にしてやれることは何もない。

 仮にもし、あそこで『分かった』と答えていたところで、そのあとどうすればよかった?

 やはりこの問題は、花が解決するべきだったんだ。 

 俺はそのままベッドで寝てしまった。

 起きるとカーテンの隙間すきまから日差しが流れ込んでくる。

 時刻は7時30分。

 そろそろ学校へ行く支度をしないといけない……。

 重い腰を上げて下の階に行こうとすると、どんどんと大きな音が俺の部屋のドアをたたく。


「優太! 入るよ」


 慌てた様子の母親が、俺の返事も聞かずに勝手に部屋に入ってきた。


「何? 今から下行こうとしてたんだけど?」


 勝手に上がり込んできた母親に、少し怒りを感じる。

 反抗期という奴だろうか?

 親がすること全てに腹が立つ。

 そんな俺の気も知らずに、母親はカーテンを開けて外を指さす。


「ちょっと見て! 花ちゃんたち引っ越しちゃうんだって」


「――え?」


 母親が何を言っているのか、理解するまでに少し時間がかかった。

 花が引っ越し?

 俺のせいで?

 急いで立ち上がり窓の外を見ると、引っ越し業者がトラックに花の家の荷物を積んでいる。

 俺は花に事情を聞こうと思い、急いで玄関に向かう。

 外に出ようとくつを履き、ドアを開けようとしたときに体が止まる。

 俺は花になんて聞くんだ?

 今更どのつら下げて、花のところへ行くんだ?

 俺の顔なんてもう見たくないんじゃないか?

 そう思うと、俺はドアを開けることが出来なかった。

 俺は靴を脱いで、上の階に戻る。

 戻る途中で母親に呼び止められる。


「花ちゃんに会ってきたの?」


「いや、会ってない」


「え?」

 

 心配そうな顔をする母親が、『何で?』と聞いてきたが、俺はその返答もせずに母親の横を通り過ぎて自分の部屋に戻る。

 今日は学校に行きたくない。

 布団にうずくまって横になる。

 もう花と二度と会えないのか?

 気づくと涙が出ていた。

 いくら目をこすっていても、その水は止まらない。

 息が出来ない。

 こんなに苦しいのは初めてだ。

 花は毎日こんなに苦しかったのか。

 過呼吸かこきゅう寸前になり、まともに空気が吸えない。

 こんなに苦しいぐらいなら、最初から花と会わなければとさえ思ってしまう。

 でもそれは違う。

 花がいたから、俺は友達がいなくても大丈夫だった。

 いつも俺が一人の時に、あいつは俺のそばにいてくれた。

 なのに俺は、あいつが苦しんでいるのに、助けを求めていたのに、何もしてやらなかった。

 何であいつはそんなに優しいんだよ……。

 俺は涙を止めて、呼吸を整える。

 最後に花に会いたかった。

 なんて言われようとも、無視されようとも、あいつに会いたい。

 会って謝りたい。

 会って感謝したい。

 走って玄関まで行き、靴を履いてドアを思いっきり開ける。

 そして花の家の前まで行くが、そこには引っ越し業者の人しかいなかった。

 

「すいません」


 近くにいた、割と大きめの家具を持っているお兄さんを呼び止める。

 お兄さんは、こちらを向いて『何だい?』と首をかしげた。


「あの、ここに住んでいた人たちはどこですか?」


「あー、その人たちは一足先に引っ越し先の家に行ったよ」


 俺はそのお兄さんの言葉に絶望した……。

 こんな形で花とお別れなんて嫌だ……。

 でもどうしようもない。

 引っ越し先も聞いてないし、メールも花への罪悪感で連絡先を消してしまった。

 俺はお兄さんに『分かりました』とだけ言って、家に戻る。

 これからどうすればいい。

 花がいなくても俺は生きていけるのか?

 この先不安と絶望しかなかった。

 また俺は、自室のベッドの上で布団を被って横になった……。

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