第45話夏休み明けの不安……
花に宿題を教えてもらってから30分ほどたっただろうか……。
俺の数学のプリントは最初から二問ほどしか進んでなかった。
いやだってこの人教えるの下手なんだもん……。
頭のいい奴は、当り前のように公式に代入しろとか言ってくるけど、まずその公式がよくわからないし、公式を使うためにまた新しい公式を使ったりといろいろめんどくさい。
前から思うんだが、社会と理科は暗記科目とか言っているが、数学は公式とか暗記しないといけないし、英語は単語や文法の立て方などを暗記する。
結局全部暗記科目じゃないか?
なんてどうでもいいことを考えてしまう……。
集中できてないときって何でこんなどうでもいいことばっか考えちゃうんだろう。
俺がぽけーっと時計を見てると、花が机をばんばんと叩いた。
「ほら、集中しなさい。まずこの問題のやり方は……」
花が説明を繰り返し教えてくれるが、その声は俺の右耳から左耳へ通り抜けていく……。
やっぱ見せてもらおう。
「花。もうお前の問題写させてくれ」
俺は目の前で手を合わせてお願いするが……。
「ダメよ」
一言そう言った。
「何でだよ?」
「それじゃああなたの成長につながらないからよ」
俺の成長の心配をしてくれるなんて、こいつはどこまで優しいんだ……。
でもそんな心配は無用と言わんばかりに、俺は胸を張って答えた。
「俺の成長の心配をしてくれてるなら大丈夫だ。俺はこれ以上成長しない!」
「そんなことを自信満々に言わないでちょうだい……」
花はこめかみに手を当ててため息をついた。
「それに、私が頑張って終わらせた宿題を、ただで『写させてくれ』なんて虫がいいと思わない?」
まあ確かに……。
世の中ハイリスクローリターンはあっても、ローリスクハイリターンはないのだ……。
俺は少し考えてから花に問う。
「何が望みだ?」
「そんな悪役に言うセリフを吐かないでほしいわね……。まあ貸し一つってことで」
そういった花は、持ってきた片手バッグの中から数学の宿題を取り出した。
「はい」
渡された花の宿題は、数字がびっしり書き込まれていた……。
「この途中式と答えだけ書いておけば多分大丈夫よ。早速始めてちょうだい」
「あ、ありがとう」
俺は渡された宿題を淡々と移し始めた。
最初っから俺が写さしてくれというのを見越して、花は宿題を持ってきていたのだろうか……。
つくづく花は優しい。
だがこの優しさを知るのは俺を含めたごく一部の人間だけであり、そのほかの人間にはいい印象を与えていないだろう……。
夏休みも明ければ花への嫌がらせも終わってくれると信じたいが、どうだろう……。
人間、怒りの感情はすぐに収まるが、憎悪の感情はなかなか収まらない。
夏休み明けてもまだ花が嫌がらせを受け続ける可能性は十分にある。
その時俺は彼女にどう接すればいいのだろう。
そんなことを考えながらも、俺は花の宿題を写していた。
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