第41話彼女の嫉妬……

「皆さんお疲れさまでした! 無事にテストが終わり、来週からは夏休みです」


 長いテストもようやくいろんな意味で終わった……。

 そんな終わったテストのことなんかよりも、夏休みという最高のイベントを目前もくぜんにして、俺はテンションが上がっていた……。

 冬休みや、ゴールデンウィークとは比べ物にならないほどの大量の休み……。

 本当に夏休みというのはいい……。

 一つだけよくないことがあるとすれば、夏休み明けは八割の確率でクラスメイトに忘れられていることだ……。

 まあもともと覚えてない奴もいるだろうけど……。

 思ってて悲しくなってきた……。

 俺は花に声をかけて、家に帰る……。

 そして次の日……。

 俺たちが登校して上履きに履き替えて、二年の教室のところに行くと人だかりができていた。

 テスト終わった次の日や次の週は、掲示板に順位が張り出される。

 正直他の奴のテストの順位なんて気になんないし、やめてほしい……。

 毎回下らへんを徘徊はいかいしている俺としては、早くこの順位を張り出す制度を無くすべきだと思う。

 まあ俺が他の生徒の順位をどうでもいいと思うように、他の奴も俺のテストの順位なんてどうでもいいのだろう……。

 俺は人込みをかき分けて、掲示板の前に行く。

 その後ろをついてくるようにして、花も掲示板の前に行く。

 俺はテストの順位が張り出された掲示板を見て絶句ぜっくした……。

 花が学年一位なことも、俺がしたから二番目だったことも、そんなことどうでも良かった……。

 その掲示板を隣で見ている花が、クスクスと腹と口を手で押さえて笑い出した。


「ゆ、優太……。きゅ、9科目中ひゃ、128点って、くく、くくく」


 笑いすぎだろ……。

 何でコイツがこんなに笑っているかというと、掲示板にテストの合計点が張り出されていたからだ……。

 今までは順位だけだったのに、何故か点数まで張り出されている……。

 プライバシーの侵害だろこれ……。

 しかも一番下の奴は、1年から不登校の奴の名前が書かれていた……。

 実質最下位のようなもんだ……。

 俺は赤くなった顔を隠すように、教室に入るなり寝たふりをする……。

 

「実質最下位の矢須優太君、寝たふりなのはバレバレよ。さて……何をおごってもらおうかしら……」


 クスクスと悪いみを浮かべている花の顔が、伏せていても伝わってきた……。

 俺は顔を上げる。


「頼むから安いものにしてくれ……」


 というか負けたら奢る約束なんてしていないので、花に奢る道理もない。

 でもまあ奢らないとも言ってないので、今回ぐらいはいいだろう……。

 花はあごに人差し指を当てて、上を向いて考える仕草をした後に。


「じゃあグランドピアノで」


 っと、訳の分からないことを言い始めた……。

 

「じゃあってなんだよじゃあって……。俺が買えると思ったの?」


 グランドピアノってなんだよ……。

 いくらぐらいするのか知らないけど、俺の貯金じゃ買えないことぐらいは分かる……。


「冗談よ。次の土曜日にラーメンをおごってくれるだけでいいわ」


「まあそれぐらいなら……」


 ということで、かなり理不尽な感じで俺が花にラーメンを奢ることになった……。

 俺は花と話し終えると同時に、チャイムが鳴った……。

 そのチャイムに合わせて、掲示板を見ていたクラスメイトがぞろぞろ教室に入ってきた。

 その中でも花に嫌がらせをしているであろう女子Aは、どこか気分が悪そうな表情をしていた……。

 テストの順位がよくなかったのだろうか?

 まあ別にどうでもいいか……。

 人とあまりしゃべることがないので、人を観察するというのは割とある。

 自己紹介で『趣味は人間観察』といったが、あながち間違いでもない……。

 まあ趣味というよりはどちらかというと、習慣というか習性といった方が正しいかもしれない……。

 ボッチって他にやることないし……。

 そうしてボーとしていたら、昼休みが過ぎて5時間目になろうとしていた……。

 俺はいつも昼食は食堂で食べているので、戻ってくるのは授業開始3分前とかだ……。

 5時間目の授業の準備を済ませて座っていると、隣の花はまだ教科書を机に出していなかった。


「どうしたんだ?」


「いえ、大したことじゃないのだけど、次の授業の教科書がないのよ……」


 全然大したことあると思う……。


「ロッカーとかは全部見たのか?」


「えぇ、一応探せるところは全部探したのだけれど……」


 ということは間違いなく隠されたのだろう……。

 そうえば朝、女子Aが酷く不機嫌だったが、テストの点数が悪かった腹いせなのだろうか……?

 それか花に負けた悔しさか……。

 いずれにしても多分見つからないだろう……。

 彼女に問い詰めたところで、知らんぷりをされるに決まっている……。

 俺は出していた教科書の半分を、さりげなく花の机に置いた。

 

「あ……ありがと」


 小さい声でお礼を言った花は、少し顔が赤かった気がする……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る