第28話彼の怒り

 俺は教室に入り、着替えを済ませてすぐに帰ろうと思ったが、他の生徒もすぐには帰らずに、体育祭の打ち上げの話などをしていた。

 他の生徒がいるなか教室で着替えるのが急に恥ずかしくなり、他のところへ行こうとしたが、よくよく考えれば他に行くところなんてないので、他の生徒が帰るのを待つことにした。

 すると割と早めに矢木澤が戻ってきた。


「もういいのか?」


 俺は戻ってきた矢木澤に声をかけると。


「えぇ、別に大した怪我じゃないから気にしないで……」


 そういった彼女は、少し落ち込んでる様子だった……。

 彼女にとって、この体育祭は悔いが残る形になってしまっただろう。

 だが今更どうすることもできないし、それも攻めるものもいないと思ったが……。


「てかさ、あそこで矢木澤さんがコケなければ、あーしら二位だったんじゃね?」


 ギャルっぽい雰囲気の女子が、矢木澤の転んだことを話題にしだした……。

 

「あのまま転ばずに二位でゴールできれば良かったのに、もうちょっと頑張れなかったのかな?」


 その女子は、矢木澤が聞いてるにもかかわらず、堂々と皮肉を言った……。

 すると近くの女子が……。


「まあ確かに、あの場面で転ぶのはちょっとねー」

 

 っと便乗しだした。

 その会話を聞いた矢木澤は、走って教室を抜けてしまった……。

 

「あらら……逃げちゃった……」


 クスクスと矢木澤の悪口を言っていた二人の女子は笑っていた……。

 これにはさすがに俺も怒りを抑えられそうになかった……。

 確かに矢木澤があそこで二位のままゴールできていれば、俺達は最下位じゃなかったかもしれない……。

 だがそれを全部ひっくるめたのがあの結果だ。

 勝負ごとにトラブルなんて当たり前だ。

 それにこいつらなんか、何もしてないじゃないか……。

 どうせやる気もないくせに、失敗した人間を馬鹿にして何が楽しいんだ。

 俺がその女子達に怒りを感じていると。

 

「あんたらいい加減にしなよ……」


 近くにいた橋川が、その女子達に声をかけた。


「なーに橋川さん? あーしらに文句でもあんの?」


「文句しかねーよ。あんたらさ、この体育祭でなんかやったの?」


「別に何も……。てかそれなら橋川さんだって同じじゃん?」


「少なくともあんたらみたいに、自分が出ないといけない競技をサボったりはしてないよ」


「何よ偉そうに……。てか急になんなの? 矢木澤さん悪く言われたのがそんなにむかついたの?」


「別にあいつをかばうつもりはねえよ……。でも何もしてない奴が、頑張ってる奴を悪く言うのに腹が立っただけ……」


 だんだんとヒートアップしていき、教室の空気はとても重くなっていった……。

 二人の言い争いを聞いていた俺は、さっきの怒りの感情が嘘のようになくなっていった。

 俺はだんだん気まずくなり、教室を後にした。

 教室を抜け出してしまったが、この後どうしよう……。

 俺は他の生徒が帰ってから着替えようと思っていたが、その教室もいられなくなってしまった……。

 この後どうしようか考えていると、一つだけとてもいい場所を思い出した……。

 国語研究室。

 夏休み明けから一度も使ってないが、ここなら人も来ないしぴったりの場所だと思った……。

 俺は国語研究室のドアを開けて、中に入ろうとすると……。

 

「え……」


 中には矢木澤がいた。

 てっきりもう帰ったのかと思ったが、何をしてるのだろう……。

 矢木澤に声をかけようと、近寄ると。


「あら矢須君どうしたの? 久しぶりの部活動?」


 矢木澤は何事もなかったかのように振る舞う。

 でもその顔は、とても辛そうで、今にも泣きそうになっていた……。

 

 

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