第22話彼と彼女は友達が少ない

「えーではこれより第32回体育祭予行練習を始めます。プログラム一番、準備運動。皆さん体がぶつからないように、広がってください」


 こうして俺たちの体育祭(仮)が始まった。

 まあ予行練習なので、本番のための動きを確認するためにやるようなものなので、体育会系の奴らもそこまで張り切っていない……。


「お前らー、予行だからって手を抜いていいわけじゃない! この予行練習も本番だと思って本気でぶちかましていけー!」


 一人だけやたら盛り上がってる担任の姿があった……。

 てかこの人本当に女?

 いくら何でも男勝おとこまさりすぎじゃない?

 見た目は女教師なのだが、その言葉つかいや行動力は、完全に男そのものだった。

 なんだかんだ言ってこの人が一番暑苦しいな……。

 そうして準備体操を終えて、次のプログラムが始まろうとしていた。


「プログラム二番、玉入れ」


 次は玉入れか。 

 体育祭というのは、ほとんどが自分の出ない競技ばかりなのでとても退屈だ……。

 しかもその間に喋る相手もいないので、適当にクラスから離れたところでふらついている。

 俺は自分のクラスのいる赤組から離れて、白組のところにいた。


「あら? さまよえるボッチが挙動不審な動きをしているわね」


 いきなり嫌味ともとれる……というか嫌味を言ってきたのは、矢木澤だった。


「いいんだよ、ボッチはいつ何時なんどきでも挙動不審でさまよってるんだよ」


「それはあなただけよ。全国のボッチに謝りなさい」


 なぜおれは矢木澤にこんなことを言われているのか、全く分からなかった……。

 でもぼっちってだいたい挙動不審でふらふらしてない?

 俺の偏見かもしれないけど……。

 

「てかお前、こんなところで何してんだよ?」


 俺が白組のところにいるのは、クラスに居場所がないからという悲しい理由があるから分かるが、矢木澤がここにいるのはよくわからない。


「い、いや別に……、ちょっと用事があったのよ!」


 用事?

 こんなところに?


 「ここは校舎から一番遠いい場所だぞ? どんな用事だよ?」


 そんなところに一体何の用が?

 俺は矢木澤に質問すると、急にキョロキョロと辺りを見渡し始めた……。


「どうしたんだ急に?」


「なな、何でもないわよ! それより私はクラスの方へもどるわ」


「いや、用事はどうした?」


「あ、後でまた来るわよ」


 そういって矢木澤は、赤組の応援席に戻ろうとする。

 もしかしてコイツ……。

 俺は矢木澤の手首をつかんで止める。


「な、何かしら……セクハラで訴えられたくなかったらすぐに離しなさい」


 いつもよりののしる言葉に切れがない。

 だいぶ焦っているようだ。

 

「お前、クラスに居ずらいからここに来たんだろ?」


 そういうと矢木澤は、目をらした。


「な、何のことかしら? 私はあなたと違ってクラスにたくさん友人がいるから、居ずらいなんてあるわけないじゃない」


 いつもの矢木澤らしくなく、だいぶ動揺どうようしている。


「思えばお前って、最初の方は話しかけられてたりしてたけど、今とか全然話かけられてないし……」


「うっ……」


「しかも俺以外の奴にはずっと敬語だし……」


「いや、橋川さんには敬語じゃないわよ!」


「いや、あれは別だろ」


 討論という名の喧嘩をした相手に、いちいち敬語なんて使う奴は普通居ない。


「まあつまり、お前も俺と同じ”ボッチ”だからここにいるんだな!」


「くっ――。分かったわ、今回は貴方の勝ちでいいわよ……」


 いや別に何も勝負してないんですが。

 俺は矢木澤が友達いないということを知って、謎の仲間意識が芽生えた。

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