第20話彼女の伝えたいこと②

「じゃあ次は映画ね。私が見たい映画が今ちょうど公開中なのよ。てことであなたもついてきなさい」


「へいへい」


 やる気のない返事をして、俺は矢木澤の後をついていく……。

 少し歩いた先に、チケチッタという名前の映画館に着いた。


「じゃあこの映画のチケットを二人分お願いします」


「え? 俺も観んの? 別に外で待ってるからいいよ……」


「何言ってるのよ? 見た映画の感想を共有するのも、映画の醍醐味だいごみでしょ? まあ共有する相手のいないどこかのボッチには分からないかもしれないけど……」


「おい、全国のボッチに謝れよ! はぁ……貴重な夏休みの一日をこんなことに使うなんて、今日は厄日だ……」


「私なんて、あなたと隣の席で、しかも部活動まで一緒なんて、毎日がヤクビデイよ……」


 いやそんな『毎日がエブリデイ』みたいなノリで言われても……。

 てか毎日がエブリデイっていみわかんねーし!

 どっちも一緒だろ。

 

「まあそんなわけで、私の映画の感想を共有する相手にならせてあげるんだから、感謝しなさい!」


 何でこの人こんなに偉そうなの?

 むしろ俺がお願いされる側じゃない?

 なんて思いながらも、チケット代を払う……いや、払わされる?

 

「映画は2時からだから、もう行きましょう」


 俺たち二人が見る映画は『二人の愛』という恋愛映画だった……。

 俺は貰った椅子の番号が書かれている席を探す。


「えーとFの13だからここか」


「私はKの3だからあっちね。じゃあまた」


「おい!」


「何かしら?」


 矢木澤は、呼び止められたのが不思議そうな顔をする。


「なにが『また』だよ! 普通こういうときって隣にするもんだろ!」


 誰かと一緒に映画に行ったことのない俺でもわかる。

 

「だってあなた、席を決めるときに『どこでもいい』って言ったじゃない?」


「いや確かに言ったけど……もういいや」


 何だかコイツの相手がめんどくさくなったので、席に座ろうとする……。


「ふ! 私に口論しても勝てないとさとったのね」 


 うぜぇ。

 何でコイツ勝ち誇ってんの?

 矢木澤の相手がだるくなったので、無視して席に座る。

 座ってから5分ほどたった時、照明が消えた。

 そろそろ始まるのか……。

 映画館で映画を見るのは久しぶりなので、ちょっと楽しみだった。


「お前が好きだー!」


 物語はクライマックス……。

 意外と面白いな……。

 ありきたりといえばそうなのかもしれないが、俺はこの手の作品をあまり見たことがないので、新鮮で面白かった。


「どうだった? 映画は」


 俺は矢木澤に感想を聞くと……。


「全然だめね、どれもこれもありきたりなシーンを組み合わせたようなものばかり……。ネットの評価がよかったから見てみれば、駄作ださくだったわね」


 まじかよ……。

 どうやら矢木澤さんのお気に召さなかったよです……。

 

「あなたはどうなの? 面白かった?」


 え?

 俺的に結構面白かったと思うけど、なんだか面白いって言いにくい……。


「まあまあかな……」


「何その感想? やり直し」


 何やり直しって?

 大体コイツが『面白かった』っていえば、俺も気兼ねなく面白いって言えたのに……。


「てかもう4時だけど、そろそろ帰るか?」


 俺は話を逸らす。


「あぁ、もうそんな時間なのね……。じゃあ帰るわ」


 矢木澤が帰ろうとしたとき、俺は今回コイツに呼び出された理由を思い出す。


「おい、結局『言いたいこと』ってなんだよ?」


 俺がここに来た目的は、矢木澤に話したいことがあるといわれたからだ……。


「あぁそういえばそんなこと電話で言ったわね……」


 矢木澤は少し黙ると。


「やっぱ言うのはやめたわ」


「なんだよそれ」


「あなたの顔を見たら言う気が失せたわ」


 じゃあ俺は何でここまで来たんだよ……。


「それじゃあまた学校で」


 そう言い残して矢木澤は駅に向かっていく。

 ここで普通の男子なら、『コイツ絶対告白しようとしたけど勇気が出なかっただけだろ!』なんて思うかもしれないが、俺は違う……。

 あいつが俺に気があるなんてことは、天地がひっくり返ってもあり得ないし、ましてや『付き合って』などと頭を下げることなんて、絶対にありえない。

 あいつはそういう人間じゃないと、俺は分かっているから……。

 だから今回、あいつが何を言おうとしていたのか、全く分からない……。

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