第15話彼女の真意

「もっかい言ってくれ」


 俺は矢木澤の発言が幻聴ではないと確認するために聞き返すと。


「だから、私があなたの分からない問題を教えてあげるって言ったのよ」


 やはり聞き間違いではなかった。

 急にどうしたのコイツ?

 いつも暴言のオンパレードな矢木澤から、まさか『教える』なんて言葉が出てくるなんて思いもしなかった。


「どうしたんだお前? 俺のこと好きなの?」


 冗談めいた感じで言うと、矢木澤は……。


「はぁ……。あなたに嫌われる要素はあっても、好かれる要素なんてどこにもないでしょう?」


 深いため息をついた後に、いつも通り俺を傷つける暴言を飛ばしてきた。

 それから矢木澤は時計をちらっと見てから、机をばんばんと急かすように叩いた。


「くだらないこと言ってないで早く問題集を出しなさい」

 

 言われてかばんに手を突っ込むが、なかなか見当たらない……。

 そういえば教室のロッカーに入れっぱなしだった。

 そもそも家に帰ってゲームする気満々だった俺の鞄に、問題集なんて入っているわけがなかった。


「教室に問題集取りに言っていいか?」


「数学だけ持ってきなさい」


俺は言われるがまま数学の問題集を持ってくる。


「数学と英語は教えるけど、後は基本暗記科目だから自分でやってちょうだい。じゃあ早速一問目だけど……」


 そういって矢木澤は、問題のやり方を丁寧に教えてくれた。

 てかコイツ、いつも授業中寝てるくせに何で勉強できるんだ?


「何でいつも寝てるのに、分かるんだよ?」


「そんなの家で勉強してるからに決まってるじゃない。私教えられたり指図されるのが嫌いなの。だから家で勉強してるのよ……」


 確かにコイツは、命令する側だしな……。

 そのあとも、俺の分からない問題を丁寧に教えてくれて、気づけば午後七時だった。


「今日はもうお開きにしましょう。また明日もやるわよ」


「なんかありがとな、すごくわかりやすかった……」


「当り前じゃない。私に教えてもらえるなんて、光栄に思うことね」


 そう言って矢木澤は教室を出て行く。

 彼女が何故、俺のためにわざわざ勉強を教えてくれたのか……。

 その真意はよくわからないが、彼女がそう望むなら俺も勉強を頑張ろうとおもった。

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