叫ぶ向日葵

渋沢慶太

第1話 向日葵は太陽を見続けていた。その光に希望があると信じて…

向日葵は太陽の動きに合わせて花の正面の方向を変える。太陽に近づく為に茎が伸びる。だが、根が地面に張り付いて太陽に近づく事を許さない。向日葵は気が付いた。この位置では太陽には近づけないのだと。向日葵は種子を作った。種子が風に乗って飛んで行く。種子が見えなくなると向日葵は下を向いていた。


結局、世界を変えるのは王様だけなんだ。そう思ってしまった。来年にこの王国では大きな大会をするらしい。そこで海外から来る観光客をガイドする人間ボランティアを王国は求めている。俺の母は何故かこの大会を心待ちにしている。

「もう見れないかも知れないじゃない」

「俺は興味ないな」

「なんでよ。スポーツは健斗けんとも好きじゃない」

僕は学生時代、陸上の短距離に入っていた。毎日変わらない景色を見ながら走っていた。

「あの大会は輝いた奴だけが出れる大会なんだ」

「あなただって頑張ったじゃない」

「あの成績じゃあ、世界には敵わないよ」

「そう言えば、高校の時の健斗の友達、名前は確か…」

「聡か。あいつは俺と大違いだった」

「健斗の数少ない友達だったけど、今は何してるのかしら」

「知らないよ。最近はもう会う事も無くなった」

「でも、最近は凄い選手が大量に生まれているから、生き残るのは難しいわ」

「あいつに勝てる奴なんているのかよ」

俺はキレてしまった。俺は今まであいつに勝てた事は無かった。いつも2番だった。だからなのだろう。喋らなくなったのは。

「あら、貴方の1人サポーターじゃない」

「そうかもな。俺に勝てない相手が世界1位であって欲しいだけだ」

「だったら、少しでも友達に良いパフォーマンスが出来るようにしてあげるのが、今健斗が出来る事じゃないの」

俺は仕方なくボランティアに登録した。日にちも都合よく、集合場所は意外にも近くの港だった。今は25歳。今は5月で、6月1日で26歳になる。

「早く結婚しなさいよ。良い女がいたら、撮り逃すんじゃないよ」

「うるさいな。俺のペースで考えさせろよ。へックション!寒いな」

「そうかしら、もう夏じゃないの」

「まだ5月だよ」

俺はそんな母親から一刻も早く離れたかった。そう考えたら、このイベントは細やかな休息だと思えた。

「じゃあ、また何かあったら電話してくれ」

「健斗。母の日に来てくれて嬉しかったわ。今日も元気に生きていてホッとする思いよ」

「元気じゃないよ。くしゃみ出るし」

「そんな事が言えるだけ元気って事よ」

「さっき渡した物だけど…」

「中身見てなかったけどなんだったの」

「手紙をよく読んでくれ」

「健斗の汚い字は私にだけは読めますからね」

「パソコンで打っているから文字はデカイし、ルビも全部つけているから誰でも読めるよ」

「楽しみだわ」

「元気でな」

「はい。さようなら」

俺は軽トラックに乗る。母は軽トラックに乗る男はモテないと言う。でも、便利だ。俺の仕事でも、この軽トラックは活躍する。もはや相棒とも言えるだろう。それを俺は手放しにする事は出来ない。母のシワシワの手や腕がワイパーの様に動く。まだ、体を上手く使えている事に微笑んでしまう。自分が書いた手紙を思い出した。

(拝啓 桜が散って行き、葉桜に雫が付く季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。俺は何故か体は丈夫です。鼻はたまに辛い時がありますが、花粉症を抑える薬で生きていける感じです。今回母の日にプレゼントする物はマフラーです。確かにすぐには使わないでしょう。でも、これをきっかけに長生きして欲しいです。ここの自治体は母の存在が大きく、町民全員が慕っていると隣の田中さんが言っていました。それ以上書くと、来年に書く事がなくなるのでこの辺にしておきます。今年はいろんな事が起きますが、どうかご自愛下さいませ。敬具 5月13日 山本健斗 山本千里様)


5月31日。静かな波には10人の人間が立っていた。20個の目玉は1台の巨大な豪華客船と言える様な船に目線を集めた。目線には11人目の人間がいた。いかにも代表者という風貌だ。その代表者が船から降りる。代表者は口を開けると10人の人間が口を真一文字にした。さっきまでの顔を自然に直す。

「今日はこの様なボランティアに参加してくれて嬉しく思う。早速、船に乗ってくれ。ここは少し寒いし、何よりこの様な船がありながら乗らないのはもったいない。私に着いて来てくれ」

10人の人間が代表者に着いて行く。この船は今回の様な企画が無ければ一生縁が無かっただろう。20個の目玉から放たれる視線はそれぞれ違った。グランドピアノに目を向ける人もいれば、キッチンに体が引き寄せられる者。俺は代表者に目を向けていた。代表者はこんな風景を予想できた様に嘲笑いう。

「ここには素晴らしい物が多く揃っている。ここはロビーだ。お客様は先ず、ここを通る。ここで心を鷲掴みにしなければならない。

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叫ぶ向日葵 渋沢慶太 @syu-ri-

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