第27話 出国の行き先【後編】
「いや、あの、まずどこの国に行くかを考えてたから……そこまでは……」
「ああ、なるほどな。じゃあ参考までにだが……東『レニオドラン公国』と南『ファンタジオール共和国』には列車が通っている。関所はでっかいステーション……駅になっていて、通行紋は駅の中の通行管理局内で発行されるんだ」
「「へぇ〜!」」
な、なんかワクワクするな!
列車の旅かぁ!
「で、西『ダークネス帝国』は関所が空にある」
「「え、えええええぇ!?」」
「空ぁ!?」
声を上げるプレイヤー三人。
なにそれ、そんなの無理ぃ!
どうやって行くの!
「ははは! 飛竜やグリフォン、鳥型の大型モンスター……一応レンタルや飛翔能力のあるモンスターバスも出てるけどな。ちょっとそういうのは値が高い。レンタルは大体三百から五百円。バスは七百円だ」
「うっ」
「あ、それは……確かに高い、な」
この世界の物価を思うと確かに高い……。
「なによりモンスターレンタルは『騎乗』スキルがなければ借りられない。ああ、嬢ちゃんは『騎乗』スキル持ってたんだっけ」
「…………」
うっ、絶妙に思い出したくない思い出が……!
カカカカ、と笑うサイファーさん。
あの時、一言くらい止めてくれてもバチは当たらなかったと思いますよ!
「だからまあ、行きやすいのは『レニオドラン公国』と『ファンタジオール共和国』。『ダークネス帝国』はクエストはねぇが難易度は高め。『桜葉の国』はクエスト有り、だ。行っとくが中央大陸の外はもっと大変だぞ。ポータル系アイテムか転移系魔法が使えないといちいち徒歩や乗りもので移動しねーといけないから地獄を見る」
「ポータル系アイテム? 転移系魔法?」
「ん? そうか、そこからか。知っての通りこのゲームのフィールドはクッソ広い」
「「はい」」
真顔で同意するのは私とルーズベルトさん。
チナツくんは今日始めたばかりだから知らないだろう。
このゲームのフィールドは本当に信じられないほど、広い。
大きな大陸の他に無数の島があるのだが、あれはプレイヤーの別荘地。
いわゆる個人の持ち島。
中には公式で用意された『監獄島』……犯罪を犯したプレイヤーの収容施設や、『コレフェル』……初日に私がキャリーに教わった無法地帯の島もある。
まあ、どちらも行くのは特殊な人ばかりだけど。
そういうプレイヤーの持ち島は、今も無限に増えているそうだ。
地図には基本、載せたい人だけが掲載許可を出している。
つまり地図に載ってない個人の持ち島はもっとあるって事。
まあ、それを差し引いても乗り物がなければこの国の中でも日跨ぎでしかたどり着けない町もある。
徒歩だと誰ともすれ違わず、町にもたどり着けない歩き詰めの日々とか普通にあるって事。
「そうか、瞬間移動みたいな事が出来るアイテムや魔法があるんですね!」
「そうだ。実は城の中に転移陣があったりもするんだが、これは国同士の転移陣と繋がってるから他国に行った事がないと使えない」
「……あ……一回行った事がないとダメなアレ……」
「そうだ」
がっくり。
まあ、そうだよね。
普通のゲームでさえそうだもんね。
ゲームあるある。
「地図があれば行った事のある場所は自動でマーキングされる。次回から自動で行く事が出来るようになる……ってのはさすがに知ってると思うが」
「え」
「え?」
「え!」
「おおう、マジか」
慌てて地図をカバンから取り出してチェック!
「っ、ど、どこに!?」
「タップしてピンチアウト」
「タップしてピンチアウト!?」
その機能さえ知らなかったんですけど!
ち、地図ってスマホみたいに指で広げて拡大……出来たんかーーーい!
「ほ、ホントだ……行った事のあるダンジョンには光の点がついてる……」
「そこをタップすると飛ぶ事が出来る。まあ、この地図がポータルアイテムというやつだ。なんだ、地図があるなら乗りものに関しては必要なさそうだな」
「し、知らなかったぁ……」
「ははは、買ったところで教えてくれなかったのか? まあ、普通のやつはすぐ気づくだろうしな」
「……」
こんな紙の地図でこんな事出来るなんて思わないよぅ……。
しかも王都が赤い点で光ってる……これって現在地って事?
し、知らなかった。
知ってたらもっと遠出してたのに……くっそー!
「……舗装された道が結構あるんですね」
「そうだぜ。で、この梯子みたいなやつが列車の通る場所だ。やらねーと思うが轢かれたら死ぬから気をつけろよ」
「や、やりませんけど……」
「ええ、線路入れるんですか?」
「まさか! 入れねーよ! 冗談だって! ……でも毎月何人も飛び込もうとするんだよ、駅とかで」
「「「…………」」」
そういうのを聞くとこのゲームにいるプレイヤーの一定層が、まだそういう人なんだなぁ、と思う。
心理的に飛び込みたくなるものがある、という話も聞いた事あるけどね。
そりゃ、ゲームの中では本当に死ぬ事はないかもしれないけど、なんという……。
「つーか、このゲーム普通に面白そう……」
とポツリ、漏らしたのはチナツくん。
ああうん、私もそう思う。
ある意味でプレイヤーもいい感じにサポートしてもらえるし、現実を完全に忘れて遊べてるし、自分のやりたいように出来る……ゲームの醍醐味だよね。
しかも、それを政府が容認、支援してくれるんだから。
「俺もやりたい」
「ははは。それじゃあ坊主、リアルに戻ったらこのゲームのモデルになってるゲームでも始めてみろよ。『ファンタジー・オン・エンヴァース・オンライン』って名前だ。違いは完全独立サーバーかそうでないかくらいだから、坊主はそっちの方が良いと思うぜ」
「! ……このゲームのモデル」
「ああ、『ZEWO』の舞台、大陸からシステムまで『FOEO』から流用されている。まあ、五年で大分こっちも変わった。学者職の奴らがスキルを増やしたし、個人の持ち島も着実に増えてるしな」
なるほど、このゲームの流用先……いわばオリジナルか。
まあ、これだけの舞台を政府がすぐに用意出来るとも思えないし、そういうのがある方が当たり前かも。
「リアルに戻ってもこっちのアバターを『FOEO』にコンバートして遊べるぜ。オリジナルの『俺』も記録データは共有しているから、ちゃんと覚えてて話も出来る!」
「!」
「そ、そうなんですか! じゃあ、もし俺がリアルに戻っても……また……そっちのゲームで、団長に会う事が……」
「ああ。まあ、新しくあっちでアバター作り直しても良いけどよ。そうなると誰だか分かんねーから声かけてくれや」
「……!」
ルーズベルトさん、すごく嬉しそうだ。
……よっぽどお世話になってるんだなぁ。
でも、私もそれはとっても嬉しい!
だってリアルに戻ってもまたキャリーに会えるって事でしょ?
しかし『NPCの記録データ共有』だなんてすごい事考えるのね、このゲームの運営。
ううん、リアルに戻ってから、やっぱり不安定になっちゃう人がいても『FOEO』を始めれば事情を知ってるNPCが話を聞いてくれる。
そう思うと、かなり気持ちが楽になるな。
リアルに戻っても平気かも、って思える。
うん、すごい。
「もしかして、それでサイファーさんやハイル様やキャリーはこう、NPCっぽくないというか……」
「んー、そうだな、それもあるだろう。でも、一番大きな理由は一部のNPCはリアルで生きてる人間が、人格提供してくれたデータが基になってるせいだな」
「!」
「じ、人格提供!? なんですか、それ」
うえっ。
ちょ、ルーズベルトさん、人の頭を押し退けないでよ!
んもう! サイファーさん大好きになりすぎなんじゃないの!
「ま、普通に人格……性格のデータを提供されたって事だ。俺みたいな人間がリアルにいるって事だな」
「!」
「そういう人間は、割と多いんだぜ。この世界でそこそこ重役のNPCはそういうのが多い。容姿までは、って話だし、俺たちもオリジナルがどんな名前でどこでどんな人生、生活を送ってるのかは知らん! だが、まあ、お前さんたちみたいな事情でリアルを生きてるのが辛いって奴らにも、俺らみてぇなのがリアルにいるっつーのは知っててほしい」
「…………っ」
ルーズベルトさん、泣きそう。
……そして、そうか、キャリーやハイル様も……人格提供者……オリジナルが、いる。
それも、リアルに……。
現実にあの二人のような人が生きているんだ?
「…………」
それは、救いだ。
「ん、さて……空が赤くなってきたな。今日はこんくらいにしよう。嬢ちゃん、送りは必要か?」
「いえ、大丈夫です」
あんことだいふくを連れていれば、ならず者に襲われても即対応出来るので!
町中のならず者って、慣れると本当に良いお小遣い稼ぎになるんだよね。
クエスト受注してなくても、やっつけたら懸賞金が出るんだよ!
「国から出る時はハイル様や王妃に会ってってくれよ」
「は、はい! ……目的地に関してはもう少し検討してみますけど」
「そうだな、それがいいだろう。よし、じゃあそろそろ行くぞ坊主」
「うっ!」
がし、と首根っこを掴まれるチナツくん。
「いーやーだー」ともだもだするが、あの体格差だ。
まるで子猿……いや、赤子のように運ばれていく。
「……シアちゃん外国に行くのかー。すごいなー」
「ルーズベルトさんは騎士のお仕事頑張ってくださいね」
「うん。……警察学校の授業も、希望すると受けられるらしいんだ。だから、座学はこっちで学ぶ事にしたよ」
「お、おお! さすが政府公認VRMMOですね!」
「うん! 頑張るよ!」
初めて会った時とはやっぱり別人のようになってるな。
うん、私も頑張ろう!
明日までに、次の国を決めるんだ!
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