異世界転生したらブロンズソード
とろろ
女性冒険者リーエの奮闘記 Ⅰ
0節 「終わりと始まり」
ご存じのとおり、『異世界転生』と言うモノ、ジャンルはは実に流行りものだ。
「自分自身が自分の体を保ったまま異世界転生するもの」。
「自身の体は保てないが、別の体に憑依し『最強』をもって異世界転生を果たすもの」。
『最強』、『最弱』これらはそれぞれだが、それぞれに物語は展開している。
では貧弱すぎる設定はどうだろうか?
例えばの話だ。
最強の武器「エクスカリバー」、「ラグナロク」などの武器を憑依すると楽しい事ばかりだろう。何て立って無双できるばかりなのだから。
皆さんは序盤の武器をご存じだろうか?
そう、『ブロンズソード』。
これが初心者冒険者が愛してやまない無難中の無難。
「ヒノキの棒」よりも強く、また「アイアンソード」よりも弱い、価格もお安くお買い求め可能な武器であるのだ。
そして序盤であるが故、『特殊効果』にも期待はできない。
そんな愛好ある『ブロンズソード』に異世界転生者が宿っているとしたら?
―――――きっと弱すぎてすぐ終わってしまうお話なのかも、知れない。
でも、ブラフなんてつきもの、というだろう。
『ブロンズソード』が目醒める訳がないのだから。
〈1〉
おなじみの学校のチャイムが、嫌々に耳の中に入ってくる。
――――やっと終わった。
―――今日、何して遊ぶ?
クラス中にがやがやと騒めき出す。
丁度時刻は一六時を過ぎていた。
夕焼け空がとても綺麗に硝子に映る。
青年は窓越しに移る夕日を、じっくり眺めていた。
―――――今日、帰ったら何しよう。
好きなオンラインゲームでもしようか、そう思っていたところに。
「なーに黄昏てるの真琴」
近くから女の声がした。
クラスの中心でもある長髪の黒色女。
見るからに豊満な胸をプルンと震わせ、どしっと青年の目の前まで迫りくる。
「な、なんだよ」
「――――クラスの投票、まだアンタだけ出てないんだけど」
次の宿泊学習でのアンケートの投票の話だというが、全く話を聞いてなかったので、どうもです気にはなれない。
青年は硝子越しに目をそらし、よそよそしい構えを取る。
「無視しない!」
女はグイッと真琴と名乗る青年の顔を無理矢理正面に戻す。
「いたい、いたい!」
青年はグイグイ引っ張られ痛みを感じる。
「まったく、――――まこちゃんいっつもなんだから」
女は紅く頬を染めながらボソッとつぶやく。
「なんだって?」
「なんでもない!」
そう怒鳴り気味で女はどこかに行ってしまった。
校門入り口。
青年――――真琴は信号が青になるのを待っていた。
携帯で暇をつぶしていたのだが、一向に青に変わる気配がない。
「どうなってるんだ」
真琴は携帯をポケットにしまい、信号機まで近くにより、調べる。
上を見上げて自動車用の信号機を確認するが、特に変わったところは無い。
――――この信号機、こんなに長かったのか。
つまらない時間を過ごした、と思った真琴は別の道から帰ることにした。
―――――今日、ゲーセン寄ってかね?
―――――カラオケ行こうよ!
帰り道に飛び交う私語。
真琴は誰よりもその言葉を聞くのが嫌いだった。
お気に入りのヘッドフォンをカバンから取り出し、装着して好きな歌手の曲を再生しながら鼻歌を鳴らしながら道を歩いていく。
途中の帰り道。
「あっ、真琴」
「…」
さっき突っかかってきた女だった。
「今日、家寄って行ってもいい?」
ヘッドフォン越しからなんとなくそう言っていた風に聞こえたので、答えることにした。
「…好きにしろよ」
「やった!」
この会話からすると、身内のような会話に聞こえる。
実際はお隣同士、ご近所さんで幼馴染と言う事だけである。
二人は横並びに、道を往く。
「真琴」
「ん?」
女は真琴の右手を握る。
「―――――どんな事があっても、私はずっと一緒だよ」
「…!」
その言葉は、真琴の中に深く突き刺さる。
どこにでもいる平凡な青年。
でも何かに優れていると疎まれることがある。
それが過剰となり、集団の差別、軽蔑など。
真琴は今でさえ何かと『見られて』るのだ。
『優れて』いるものを見つけるために。
そこを突こうとする輩に。
ぼうっと考えていると何やら大声で叫んでいる。
さっきの女だ。
険しい顔で真琴に向かって叫んでいる。
「―――――早くこっちに来て!」
よくは分からなかった。だが、右耳から音が近くに来ていることが、今はっきり解った。
振り返ると直ぐ近くにトラックが突っ込んできている。
避け切れない。
真琴はそのまま来るトラックに只々、立ち尽くす。
――――俺の人生はここで終わるんだ。
車の前方の板金が、身体全体に触れ、疾風の如く吹っ飛んだ。
飛んだ真琴の体はグシャッ、と気味の悪い音でアスファルトの道に着地する。
流れる血。
真琴の意識は既に朦朧としていた。
倒れる真琴に駆け寄ってくるのは、あの女だった。
薄れていく意識の中で、女は泣きじゃくり、声をかけてくる。
だがもう耳には、何も音が入ってこない。
力の限界を感じた真琴は静かに目を閉じ、暗闇に堕ちた。
暗闇の中は、静かで落ち着く。
そう思える真琴は自分でまだ意識があると悟った。
ゆっくりと、海の中に落ちていく感覚。
そんな中、音がまた感覚で聞こえるようになっていた。
――――カンカン、とモノを叩く響き。
炎が燃えるような音、シューッと蒸気が出ているような音。
様々に情報が、真琴の中に流れ込んでいる。
「――――」
小さな会話が心中しか聞こえてくる。
――――ここは、一体?
真琴は暗闇に降り立った。
空間は一面に広がる白。
だが死んだ、という実感が未だわかないのは不思議だった。
真琴は辺りを見渡す。
―――――しかし、何もなった。
そう思ううちに、段々と声が聞こえてくるようになった。
「全く、これは売りモノにならねえなあ」
貫禄のある喉太い音声だ。
――――だが、これは音声なのか?
不可解に思う真琴はせっせと原因を探す。
すると、少しだけだが当たりの景色の一部分が見える鏡を見つけた。
その鏡に映し出されていたのは――――何かのお店だった。
沢山の鉄の塊が置かれ、高炉や道具など様々。
その中には鋭利ある武器の数々が取り揃えていた。
そんな中の場所が映し出されているとは、あまりにも予想にしていなった。
そして人間らしき面影が、こちらに近づいてきて、鏡は別の視点に切り替わる。
ズシン、と真琴の白の世界の中が揺らぐ。
だが揺れはすぐに収まり、鏡を見ると。
年配の老人だろうか――――そんな人物がジロジロとこちらを見ている。
「ふむ…初心者冒険者にはまだこっちがいいできだろうな」
―――――初心者冒険者?
全く状況が呑み込めない。
真琴は話に応じてみようと試みたが――――――。
返事は無かった。
そのままズシン、とまた揺れまた収まる。
―――――いったい、何事なんだ?
鏡は先ほどの年配の人物はいなくなっており、再びまた声だけがする。
「―――――やあ、いらっしゃい」
今度は誰か来たようだ。
「こんにちは、おじさん」
可憐な、小鳥のさえずりのような声。
何処か優しく――――誰かに似ている気がする。
「おじさん、私今日冒険者になりました」
「おお、そりゃめでたい。好きなの一本持っていきな」
この会話のやり取りだと、以前からの知り合いのように感じた。
そしてここは、武器やであることも確認できた。
しかし、やはりまだ不可解である。
自分は『どの立ち位置』なのか、それだけははっきりしておきたい。
「うーん、どれにしよっかなー」
女と思しき声はコツコツと靴の音を鳴らしながらこちらに近づいてくる。
そして――――音が無くなった。
真琴は何があったのか、少し気になったがそう思った瞬間。
―――――まただ!
ズン、と白い世界は揺れ動く。
そして鏡に映ったのは――――先ほどの声の主だと思わる女の子。
黒茶色のショートヘアに金色のメッシュ。
洋服は今にでも冒険に出そうな軽装かつ右肩にかけて鉄製のガントレットを装着している。
ポイントは洋服についている小さなリボンだろう。
「おじさん、これに決めた!」
「おいおい、そりゃ出来はいいが…『ブロンズソード』だぜ?」
この目線、この角度で想像すると不思議と持たれているような気がする。
そして真琴は初めてここで気づくことになる。
『オイ…まさか俺って』
「よろしくね、私の相棒!」
『ブロンズソード』になってる――――――!?
こうして、一人の青年の魂が入った最弱武器と女性冒険者の物語が始まろうとしていた。
***
真琴は身体の無い白い空間で思いに耽っていた。
あの時、あの子を助けなければこんなところに来る事は無かった。
だが―――――それを後悔しているのではない。
むしろ今どうしているのか、そんなところが気になっていたのだ。
俺のせいで落ち込んだり、悩んだりしていないのだろうか、と。
そんな事に耽っていると、会話がまた聞こえてきたのだった。
「――――今度は何だよ」
真琴は、前の世界の未練を感じながら、外の世界を観察した。
「お嬢さん、良かったらうちの武器を買わないかい?」
「え?」
金色のメッシュを揺らす少女はよくいる胡散臭い商社に誘われている最中だった。
「うちのおすすめの武器でして。『フォメシュブレード』と言うのですが」
「は、はぁ…」
少女はそのフォメシュブレードを片手に取るが、貰ったブロンズソードよりも遥かに質量が高く、重い。
「うーん、私には合わないかも」
「まあ持ち始めの質と言うのはあまり期待値はありませんからね」
ははは、と相変わらず胡散臭い笑いをする。
『――――これ完全にアイアンブレードを塗料した武器じゃないか』
真琴はぼやいて発言していた事が、ソラの頭の中に流れ込んでくる。
「――――え」
少女は先程の声を聞いて、少しフォメシュブレードの辺りを確認する。
すると、完全に塗料で塗っている思わしき場所を見つけ、まじまじと見つめ。
剣先と柄を支える中心の装飾の部分が、完全にアイアンソードの部分と一緒であった。
「―――お兄さん。これ「アイアンソード」じゃないですか?」
「えっ?」
図星を突かれたかのようなド直球の焦りの反応。
少女はそういう事だったか、と半分溜息をつくが商社のお兄さんに笑顔を見せる。
「――――ありがとうございます。でも私はこれがいいんです」
「あ。はい…」
言い返す言葉もなかった。
胡散臭い商社はしょんぼりしきった状態で、ソラはその場所から立ち去る。
(――――さっき頭から声がした)
少女は商店街で購入したクリームパンを噴水の側に座り美味しく食べていた。
町中を見渡してみるが、さっきの声はもう聞こえてこない。
「――――気のせいだったのかな」
クリームパン一個目を食べ終わった少女は再び茶色の袋から二個めを取り出す。
再びニ個めを頬張ろうとしたその瞬間だった。
『あれはないな。――――色塗ったくったアイアンソードを出すなんて』
「!?」
さっきと同じく、頭から音声が再生されているような声。
少女は辺りを見渡すが、近くには誰もいなかった。
「ねえ、貴方は誰?」
少女は問いてみるが、一向に返事は帰ってこない。
―――――やっぱり気のせい?
少女は再びクリーパンを食べようとする。
『――――やっぱり居心地がなぁ。誰かと話せればいいんだけど』
「頭の中では聞こえてるんだけどな…」
少女はやはり気になる。この声の主が。
辺りの持ち物を確認することに。
―――――腰についているポーチの中ではないのか。
ゴソゴソと中身を確認するが、声が聞こえる物は持っていなかった。
「――――うーん」
少女は考える。
すると何か違和感を感じ始めた。
『おーい、誰か聞こえてますか』
そっと少女は自分の腰に据えているブロンズソードを見入る。
―――――えっと。もしかして。
少女は鞘から剣を抜き、声をかける。
「もしかして…そこにいるんですか?」
『おっ、やっと人の声が聞こえた』
少女のその声は、真琴に届いたのだった。
『ちなみに俺って、どんな武器か分かります?』
「えーと。ブロンズソードだよ」
『ですよねぇ』
はあぁ、と大きなため息が剣の向こうから聞こえてくる。
少女はこの剣に、興味を持った。
「あなたはなんていう人ですか?」
『あ、俺は真琴っていうんだ』
「ま…ことさん?随分変わった名前ですね!」
――――――――ですよねぇ。
「私はリーエ。リーエ・シュレッツァーです」
『リーエさんか。まるで外国人みたいだ』
「?」
おっと。そういえばここも海外の部類だった。
この世界のこともだんだんと把握してくるようになっていた真琴はとりあえずこの世界の世情を知るべく、話を続ける。
『あの、さっそくで悪いんだけどこの世界の事とか、話してもらえないかな』
「もちろんですよ!」
少女は得意げに世界にまつわる話を始める。
ここは、アルストライア大陸。
三大大陸の中の一つだそうで、その三大陸の中では一番大きい大陸に当たる。
細かく裂いていくと、ここは初心者冒険者が集まる場所の「シャンテ大都市」、
そして彼女―――リーエはつい最近成人になり、冒険者になったと言う事だ。
なぜかここからは彼女の興味本位なのか、年は一七歳という、真琴にとって有力なのか、
そうなのか全く意図も分からない情報も得たのだった。
『―――――で、鍛冶屋で俺に出会って今に至ると』
「そういうこと、だね」
あはは、と不思議そうな顔で笑う。
『まあ…意外と短い間柄になりそうだし、よろしくな』
「み、短い?」
リーエはどうして、と首を傾げ、真琴に質問する。
「どうして、って…お前『ブロンズソード』だぞ。お金が溜まりゃ他の装備整えるだろ」
「あ…」
リーエは確かに、と思った。
でもそれと同時にこの『ブロンズソード』は特別に感じたのだ。
――――暫くは、このままがいい。
「…考えておくよ」
『え、なんか言ったか』
「なんでもない!」
よっ、と噴水の側に座る体制をやめ、立ち上がる。
リーエはパクッと残りのクリームパンを一口で平らげる。
『しかし…本当にこんな世界に来るとはな。幻想世界(ファンタジー)感がすごい』
「ふぁ…んたじー?」
真琴は知る人ぞ知るオンラインゲームのトッププレイヤーだった。
きっかけは父がプレイしていた不屈の名作『ドラガルドスレイヤー』を横で見ており、興味津々な真琴を見て、勧めてくれた。
ただし学生であったので、時間は守るようにと、勉強をしっかりやることを条件にドラガルドスレイヤーにハマり込んでいった。
そしてそのMMORPGの続編が公表され、真琴はいち早くβテスターとなり、そして正式に稼働され時には、完全なネットゲーマーだった。
続編の名前は『アルストライア・クロニクル』。
アルストライア大陸を中心に展開されるMMORPGとされ、人気は爆発的にヒット。
そのアルストライア大陸に、真琴は自分の足で、生身で大地を踏んでいる…気がする。
『あ、リーエさんの基本情報(ステイタス)を確認してもいいかな』
「すてい…たす?」
リーエは聞いたことのない言葉ばかりで、混乱する。
『ああ、ごめんごめん。生命力(ヒットポイント)や魔力(マジックポイント)、攻撃や防御など、どのくらいの数値か。またどれだけ経験を踏んでいるかというだけだから、個人情報の開示なんかは絶対にしないから。…いいかな?』
「え…と。それならいいよ」
真琴はリーエから許可がおり、基本情報(ステイタス)を開示した。
その能力値は、真琴の想像を遥かに超えるものだった。
「な…なんだこの数値!?」
真琴は呆気を取られてしまう。
リーエ・シュレッツァー。
経験数値(レベル)7。
生命力90、魔力50。
攻撃14、防御12、回避10、会心5、素早さ20、運10。
***
どう考えても、おかしい。
能力値が、点でバラバラなのである。
リーエの職業(ジョブ)は見た目で行けば攻撃重視の戦士(ソルジャー)だ。
しかし、魔力値が高すぎる。
そして攻撃も大きく違うはずが、そうでもない。
会心率も低すぎるくらいだ。
これは本当に、ゲームの中なのか?
真琴は疑問に疑問が思い浮かんでくる。
そして挙句の果てに、所持の特技(スキル)がよくわからない。
特技(スキル)。
神の担い手、永久効果。
風塵剣(テンペストソード)、特技。
以上。
神の担い手、とは一体。
特技詳細を見ようとしたが、確認画面(ウィンドウ)が開かない。
一つの特技は情報開示できたが、永久効果だけ何故なのか、出ない。
真琴は更に基本情報(ステイタス)を追う事にした。
だが、ここで驚くべき事実が発覚する。
職業(ジョブ)。戦士(ソルジャー)、魔法使い(メイジ)、癒術使い(セージ)、格闘使い
(ファイター)。
複数の職業(ジョブ)が、彼女は身に付いている、ということだ。
そのせいか、基本情報(ステイタス)のばらつきがあったということだ。
『あとは…俺の能力か』
真琴は自分の基本情報(ステイタス)を開示する。
武器、ブロンズソード。攻撃+8。能力、特になし。但し『女神の加護』は除く。
『女神の加護』・・・?
真琴は恐る恐る詳細を確認する。
すると今度は表示された。
『女神の加護』。
あらゆる転生者に与えられる加護。
その加護は、転生前の余生によって得られる効果が変わる。
――――真琴に与えられた効果。
『導く力(リーディングフォース)』と『目醒めの力(アウェイキングパワー)』の二つだ。
これ以上の詳細は開かれなかったが、真琴はこれらを全て整理した。
彼女――――リーエ・シュレッツァーは複数職業(マルチジョブ)の使いであり、その伸びしろは未だ図り切れない。
能力値も平均以上に高く、まだまだ上昇の余地はある。
そして自分の能力――――というよりも『女神の加護』の効果で2つの力が備わっているということ。
これは――――『俺』がしっかりしなくては。
「ま、真琴くん?」
『ん、どうしたリーエ』
ずっと意気喪失したように無口になっていた真琴が心配になり、話しかけるリーエ。
真琴はそれを察しして、話を繋げる。
『あ…悪い。リーエ、君にもちゃんと話しておく必要があるな』
「あ、基本情報(ステイタス)のことだよね」
呑み込みが早いのか、真琴の話す内容は、スイスイと彼女の頭の情報に入っていった。
異世界転生したらブロンズソード とろろ @Fran1021
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