ショートストーリー
きよじろう
第1話 命の値段
とある国の近未来
その国では
誰でもがこの世に産まれた時点で
命の値段が決められる
AIシステムが導入されていた
それは
代々の家柄や家系や
政府への貢献度により
産出された
その国のある地方に住む
ごくごく平均的な値段を付けられた
ある一家での出来事
その一家の祖父は
産まれたばかりの孫娘の事で
毎日頭を痛めていた
産まれつきの難病の治療に
莫大なお金が掛かるのだが
平均的な値段しかついていない一家には
とても払える金額ではなかった
かといってこのままでは
孫娘の命も
ゆっくりと確実に無くなる
線香のように
時間の問題である
悩み抜いた祖父は
可能性が無いことを承知で
自らの命の査定を申し出た
この国では
個人の命を
その時の時価で政府が買い取ってくれる
システムが有った
政府としても
長寿社会で誰でもが長生きをするようになり
社会福祉費用の捻出に苦慮する中
命を買い取った方がコストが削減できる
というメリットに気がついたからだ
この国では
全国民に命の値段が付けられ
全国民の命の値段が毎日
変動するのだ
政府にとって良いことをすれば
値段は上がるし
政府にとって不都合な事をすれば
下がる
全くもって政府がひとの命を
握っていたのである
老い先短い祖父は
自らの命の値段など
いくばくにもならない事を
承知の上で
孫娘の命を救いたい
ただその一心で
命の査定を受けた
すると
祖父の願いが天に通じたのか
あるいは神という存在が実在したのか
祖父の遺伝子を解析すると
今までに発見されていなかった
未知のサーチュイン遺伝子が見つかった
サーチュイン遺伝子とは
飢餓や命の危機の際に生命を守ろうと
発動する遺伝子の総称だ
祖父の持つその遺伝子は
人類でも初のものであり
その遺伝子から細胞を作製し
各臓器を生成出来れば
理論的に二百五十歳まで生きる
事が可能と分かった
かくして
ただ同然と自身でも思っていた
祖父の命の値段は
どんどん吊り上り
孫娘の病気治療費どころか
その一家が十代も存続出来る
程の莫大な値段になったのである
祖父は
人生で最大の喜びに浸りながら
幸せそうに
自らの命を政府に売って
旅立っていった
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