だ、大丈夫だよ!!先輩童貞だよ!?童貞だからね!?童貞なんだから!!

 早朝にもかかわらず騎士や冒険者達が軍舎の会議室に集まっている。

 その中には熟練の騎士、冒険者が多いがそうでない冒険者もいた。


 先輩……大丈夫かな……


 これから始まるであろう重要な作戦を前に陽介の心配をしているよつば。

 魔術師であろう赤髪の少女、クローディアがよつばに話しかける。


「よつばよ、陽介ボーイの心配か? そんなに心配なら連れてきたらよかったのじゃ」


 そう言ってよつばのおしりを揉み揉みするクローディア。

 彼女なりに元気づけているのだろう。


 よつばはクローディアの言葉と行動に苦笑いで答える。


「それはそれで心配だから……」


「ふん。 陽介ボーイなら心配せんでも大丈夫じゃろ。戦闘はまだまだじゃがバカではない。王都生活に適応して女の一人でも作ってるかもしれんゾ」


 大声で笑うクローディア。

 会議室に集まった人々は一瞬ギョっとするものの、笑っている少女を一瞥すると興味を無くしたようだ。


「だ、大丈夫だよ!!先輩童貞だよ!?童貞だからね!?童貞なんだから!!童貞ってすごいんだから!!」


 よつばの声に一部の男達が過敏な反応をする。

 のっぴきならない事情があるもの達だろう。

 剣士風の美男子、ナルシッソスは澄ました顔で聞いている。

 のっぴきならない事情はないのだろう。


 よつば達が周りの男達の触れられたくない部分を刺激していると、ひと際目立つ白銀の鎧を身にまとった隻腕の男が会議室に入る。

 

隻腕の第二騎士団長 シュナウザーだ。


「早朝にもかかわらず良く集まってくれた。まずは礼を言おう。今回の作戦を改めて確認する」


 シュナウザーは説明を始める。

 

 王都諜報部隊が国内の魔術師団を襲った『連中』の拠点を発見。

 場所は、ここから馬車で十日程の場所にあるカグアコン山脈中腹。

 

 冒険者ギルドへの依頼に加えて国中から集めた『加護』持ちの能力者。

 『連中』に対抗する切り札だ。

 本来ならば一部隊、千人単位で殲滅に向かうところだが、諜報部隊の情報では大きな動きを見せる事で逃げられる可能性もあるとの事だ。

 また、この山脈は隣国との国境でもあり、部隊を出す事によって隣国にいらぬ火種を巻く可能性もあり動きが取りずらい。

 少数精鋭での迅速な行動が求められる作戦だ。


 そこで白羽の矢が立ったのが百戦錬磨のシュナウザー騎士団長。

 第二騎士団ではあるものの国王がシュナウザーに寄せる信頼は厚い。

 王国が真剣に対応しているのがわかる。

 

 今回の部隊は冒険者達が約五十人、騎士団達も同じく約五十人となり合計百人程の討伐部隊だ。

 

 「……という事だが質問はあるか?」


 一通り説明を終えたシュナウザーがまとめに入る。

 ちらほらと質問が入りその質問に丁寧に応えていくシュナウザー。


 シュナウザーがいったいどんな人物なのか、わからない冒険者もこの対応を見てとりあえずは信頼が出来そうだと感じている。


 さっそく準備を終えた討伐部隊は馬車に乗り込み王都を出発する。


 離れ行く王都を馬車に揺られながら見つめるよつば。


 これから始まる作戦よりも王都に残した陽介の事を心配している。



 先輩…… 

 ちゃんとお仕事探してご飯食べてちゃんと寝て適度に運動もして健康で文化的な最低限度の生活はしていてくださいね……


 隣でさっそく眠っているクローディアの枕にされながら思うよつばであった。



======



 討伐部隊が王都を出発して五日。

 カグアコン山脈に向かう道中は順調であった。

 鍛えられた騎士団に旅なれた冒険者。

 魔物が現れても問題なく排除していく。


 よつばとクローディアは道中、騎士団の魔術師から魔術を教わっていた。



「うむ。おぬし!教え方の筋がなかなかいいゾ!」


「は、はぁ……あ、ありがとうございま……す?」


 教わる立場でありながら偉そうなクローディア。

 その横ですまなそうにしているよつば。

 どう反応していいのか困っている騎士団魔術師のミンティア。


 ミンティアは薄っすらと青みがかっている白のローブに中級魔石のついた杖を所持している。どちらも騎士団支給の装備でそれなりに高価なものだ。

 ミンティアは特段特徴的な部分がない普通の女性だ。栗色の毛を肩で切りそろえており知性的に見える。

 最近の悩みは結婚。婚活に励んでいるがなかなか良い相手とめぐり合えない。

 そんな三十路女性だ。


 騎士団といえども全員が剣と盾を持ち戦う戦士だけではない。

 後方支援を行う魔術師ももちろんいる。

 その魔術師から移動中や食事中もつきっきりで指導を受けることができている贅沢な環境だ。

 よつばとクローディアがこの討伐隊に参加した理由の一つがこれだ。


 よつばだけではなくクローディアも、自分の魔術の腕前がまだまだである事は感じていた。魔術はエアロの街の教会でママから教わるのもいいが、ずっとエアロの街にいるわけにもいかないし、ママにお世話になりっぱなしなのも悪い。


 それと……先輩がなぁ……


 よつばは他にも理由があるのだろう。

 なんにせよ魔術を覚えての戦闘力向上はこの世界ではとても有意義だ。


 これまでの道中でクローディアは


風属性 中級 支援魔術

風の鎧ウインドアーマー】指定した対象に風の鎧を纏わせる。

風属性魔力付与ウインドウエポン】指定した武器に風属性を纏わせる。


 中級魔術を二つ習得していた。

 これには騎士団魔術師のミンティアも驚いた。

 目的地までの道のりで覚えることができるのはせいぜい二つだと思っていたが、まだ王都を出発して五日だ。

 予想の倍の速度で習得している。

 クローディアの優秀さに加えて祖先に妖精族がいる事も要因だろう。


 そしてよつばも魔術を習得していた。


水属性 初級 

水源アクア】魔力を水に変える。飲める。

水の刃アクアスラッシュ】水&斬魔術 水の刃を放つ


 よつばは何かと役に立つアクア、それから水属性の初級攻撃魔術だ。

 初級といえどもやはり覚えが早い。

 よつばには基本魔術を教えているのは、そもそもとても強力な『加護・聖神の寵愛』を持っている為、今回の作戦ではいるだけで役に立つだろう。


 ミンティアは次は何を教えておくべきか、優秀な生徒二人を前に悩んでいた。

 

「二人とも、とても優秀です。クローディアさんは今回の戦闘で役に立つ支援系魔術をさらに教えましょう。よつばさんは初級魔術ですね。二人ともどんな魔術が良いですか?」


「上級魔術じゃ!」


 即答で答えるクローディア。


「言うと思いました……」


 ミンティアはこの五日間でクローディアの性格は分かっていた。

 しかし、さすがに残り五日ではどうしようもない。


「五日ではさすがに無理ですよ……よつばさんは?」


「私は支援魔術がいいです、なんかこう、ストロングでパワフルなやつがいいです!」


 すとろんぐ? よつばさんはたまにわけのわからない言葉を使う。

 よつばの身振りと熱い眼差しからすごそうな魔術を期待しているのはわかるのだけど……


 支援魔術で効果を実感できるのはクローディアに教えた中級魔術からだ。

 初級魔術にも支援魔術はあるが気休め程度である。

 それでも無いよりはましか。


「それではよつばさんには初級の支援魔術を。クローディアさんには水の中級支援魔術にしましょうか」


 不満そうな顔をするクローディアに笑顔のよつば。

 クローディアを二人がかりでなだめつつ魔術の指導を再開するのだった。

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