行先と夜への期待

「なんでパーティ名がお前の名前なんだよ! 」


「いいじゃろ! かっこいいじゃろ!! 」


 クローディアは本気だ。

 全身の毛が逆立っているかのようだ。

 ドッタンバッタン床を踏み鳴らすその姿は小学生にも見える。

 引率の先生はどこだ?

 この場合俺なの?

 辞表を書こう。


「まぁ待てクローディア。コーヒー頼んでやるから」


「飲めん!! 」


「何ならいいの? ミルク? 」


「エールじゃ!! 」


 エールってことはビールか。

 まだ酒飲める歳じゃないだろうが……


「子供のくせに生意気言うな、ミルクにしておきなさい」


「とっくに成人してるわ!! 」


 成人してたの!? 見た目小学生なんですけど。

 あ、祖先に妖精族がいるんだっけ? 見た目より歳は取ってるのか。

 いったい何歳なんだ? ロリババアとかじゃないよな?


「ほれ、お金あげるから頼んできなさい」


 俺はクローディアに酒代を渡すと、嬉しそうにカウンターに注文に行った。

 とりあえずパーティ名とかいいや。

 ごまかしておこう。


 空いてるテーブルに全員で腰をかけ、ココはよつばの膝に乗る。


「さて、どうしようか? 」


「私は争いは嫌ですが今回は事情が事情です。 この依頼を受けて王国まで行くのもいいと思いますが、先輩はどう思いますか? 情報も集まりそうですし」


「そうだな。 うーん…… 」


 俺の答えを一番気にしているのはナルシッソスだ。

 今回の襲撃事件、なんとか原因を知り解決したいだろう。

 だが、危険が危なくてデンジャーな事にもなりそうだしなぁ。


 話を聞くだけでも言いというのならとりあえず行ってみるか?

 日本に戻る手がかりも掴めるかもしれない。

 この街ともお別れか。


 クローディアがエール片手にニコニコ顔で戻ってきて飲み始める。

 こいつはあまり考えて生きてなさそうだな。


 オセ…… どう思う?


〈知らぬ〉


 なんでそんな冷たいこと言うのよぉ。

 俺とオセさんの仲じゃないですか。


〈吾輩は久しぶりのこの世界を見て回れたらそれで満足だ。 お前が何をしようとどうでもいい〉


 とってもクールなのねオセ。


 そういえばよつばのジョブ適性で出た〈神託者〉って何?


〈神から愛されているな。あの娘のスキルにある『聖神の寵愛』。聖・属性の神に愛されている。聖神もまた魔術の神だ。主に魔術において特別な能力を得ることになるだろう〉


 聖神も魔術の神? まぁいいか。

 『賢者』と『神託者』ならどっちがいい?


〈吾輩の主観となるが『神託者』がいいだろう〉


 そうか。よつばに言っておくか。


「とりあえず、このままこの街にいるよりは王国に一度行ってみる? 王国までの道のりはどうなの? 」


「それについては僕が。王国には何度か行ったことがあります」


 ナルシッソスからの説明はこうだ。


 このエアロの街から王国までは馬車で三日、徒歩なら五日ぐらいとの事。

 道中は街道が整備されている為魔物は少ない。

 出る事もあるが、強い魔物、ランクの高い魔物は出ないようだ。


 定期的に王国騎士団や領主が街道周辺を見回り、討伐しているらしい。

 冒険者ギルドにも依頼が来る事もあるようだ。

 

 途中には街もあるので補給もできる。

 馬車代も出るし、身銭は痛まない。

 ちょっとした小旅行だな。


 ナルシッソスは王国にはこんなお店も! あんなお店も!

 武器や装備も充実していて!

 住んで良し! 遊んで良し! 観て良し!

 今なら旅費も出てお得ですよ!

 ってなもんだ。


 コモンドール王国のPR大使みたいになってるな。

 こうも必死だと…… 

 いじめたくなるが我慢しよう。


「よし、じゃあ最後にクローディアはどうだ? 」


「王国か!! 良いぞ!! わらわの名を国中に広めるチャンスじゃな!! 」


 異論はないらしい。

 なら決まりだな。


「よし! それでは俺達は王国を目指そう。 その前にママに報告、そして準備して三日後ぐらいに街を出ようか」


「陽介さん、三日後ですか? 」


「ちょっと槍のおさらいもしたくて。 コーンウルフ相手に散々な結果でさ」


 俺はコーンウルフとの戦闘について、ナルシッソスに話した。

 先制できたときは勝負になったものの先制できなかった時、複数の時に散々な目に遭ったことを話す。

 特に腕に噛みつかれた時は死ぬかと思った。


「陽介さん、コーンウルフの牙に噛みつかれたのに今平気なんですか? 」


「平気? すぐによつばが治療魔術『ヒール』をしてくれたよ」


「初級のヒールで完治したんですか? 」


「したと……思うけど……」


 え? 完治してないの俺? 自覚ないけど……

 なんか怖くなってくるんだけど。


「軽い怪我、切り傷程度であればヒールでの治療も分かりますが、コーンウルフに噛みつかれてそんなに早く完治するとは……。 よつばさんの魔術はすごいですね」


 よつばは「えっへん!」と胸を張ったものの少し恥ずかしいようだ。


 そうか、けっこう大きな怪我だよなそりゃ。

 でかい狼に噛みつかれて腕の感覚も無くなりかけていた。

 よつばの魔力に感謝だな。


 さっそく俺達はギルドから王国に行く依頼を受け、5,000Gを受取ると教会に戻る事にした。



======



 教会に着いたのはいいものの、なんとも微妙な時間だ。

 夕食までは時間があるし、俺はオセと『身体変化』の訓練を始める。

 ちなみによつばとクローディアはまだ魔力の使い過ぎによる疲れが残っているのか、俺の練習をゴロゴロしながら見学している。

 ナルシッソスは魔の咆哮への連絡へ行った。

 これまでの経緯をまとめた手紙を出すらしい。


 さっそくオセと訓練を始める。

 

 オセ! 『身体変化』の訓練はどうしたらいい? 


〈まずは短刀からでいいだろう。昨日やったのと同じモノを作成してみろ〉


 俺の生命力を使うって言ったよね?

 

〈言った。 お前の体力を使う。 疲れもない今の状況なら問題はないだろう。使い過ぎはいかんがな〉


 よし、なら大丈夫か。日頃から体力作りはしたほうが良さそうだな。

 さっそく左手に意識を集中する。

 まだ二回目だが、一度できてしまうと二度目以降はかなりやりやすくなる。

 なんでも一緒だ。

 前回はあやうく股間を左手に生み出してしまうところだったが今回は大丈夫だ。


 しっかりクッキリ短刀をイメージし左手を短刀に変える。

 刃渡り15センチ程短刀になる。


「「おー」」


 見学組から感嘆かんたんの声があがる。

 ふふふ。 俺かっこいい。

 この調子で俺の株を上げまくってよつばの乳でも揉み……


「あああああ!!!!!!!! 」


「!? どうしたんですか先輩!! 」

 

「どうしたのじゃ!? 」


 あの日!! あの時!! オセが召喚された時に!!

 27年間の最後だと思って!! 遺言を言った!!


 よつばのおっぱいを揉むことと、ブラとパンツをセットでもらえるって約束した!

 あまりにも色々な出来事がありすぎてすっかり忘れてた!

 なんたる不覚!!

 何やってんだ俺は!!


 よし、クローディア邪魔だな。

 まずは二人きりにならないとさすがに乳は揉めん。

 俺は恥ずかしがり屋さんなのだ。


「俺の人生の中で一番大切な事を思い出したが、何でもない」


「どういうことですか!? 」


「よし、クローディアさん。 お使いを頼まれてくれませんか? 」  


「? なんじゃ? わらわに願い事か? 」


 クローディアをお使いに行かせている間にいいことをする。

 俺は策士なのだ。


「ほら、今度王国までちょっとした旅になるじゃん? 俺もよつばも旅の準備とか良く知らないしさ。必要なものを揃えてくれると嬉しいんだけど、お願いできないかな? 」


「なんじゃ。そんな事か。 四人と一匹分の準備だと一人だと荷物じゃな。よつば、一緒に行くゾ」


「待て待て待て待てい! 」


「クローディアちゃんだけにお願いするのは悪いですよ、私も行きますよ? 」


「待った、今の話無しね。 買い物は前日にでもみんなで行こう。訓練するからゴロゴロしてて」


 だめだ、乳まで一緒に行ってしまう。

 ちょっと焦りすぎたな。確かに4人分の旅の準備をクローディア一人に任せるなんて配慮が足りなかった。

 これだから童貞は困る。

 

 夜だ。今夜決行しよう。

 焦りは童貞の元だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る