異世界に転生したら最強武器ガチャで運ゲー無双しまくりです

まぐろ定食

01話 異世界転生して初武器召喚

「魔法石5個を消費して武器召喚ガチャを引きますか?」


 俺はじっとスマートフォンの画面を見つめる。100万ダウンロードを達成した人気アプリ、ドラゴンビィト。その武器を獲得するためのガチャの画面だ。一回回すのに魔法石が5個、日本円にして300円程度だ。


 俺はこの召喚に賭けていた。この召喚で激レアの武器が引けなければ、協力プレイでの人権、つまり一緒にプレイするのに最低限必要な条件が揃わなくなる。俺は息を呑んで、召喚の表示をタッチした。


 大げさな召喚演出は、もはや見慣れた光景だ。画面には光のエフェクトが魔法陣とともに広がり、ゲームのキャラクターが、その召喚の期待度を知らせてくれる。今回の召喚では、SR以上確定演出のエルフ女の応援演出が入った。


 俺が狙っているのはSSR(スペシャルスーパーレア)のエクスカリバー。自分の愛用キャラの、専用武器だった。


 召喚演出が終わると、そこに表示されていたのは、SSRを示す虹ではなく、SR(スーパーレア)の金のエフェクトだった。


「またハンマーかよ……もうやるかこんなクソゲー!」


 スマホを投げ捨てる。このセリフを吐くのも何回目だろう。召喚で爆死するたびに、俺はゲームに悪態をつくようになっていた。


 就職に失敗してからというものの、俺は働くこともせず、だらだらとスマホゲームに明け暮れる日々。不安をかき消すように、ガチャの結果が全てを決める世界に没頭する毎日。


 本当は、心の底ではわかっていた。いくらゲームで強くなったとしても、現実の俺は何も強くなんてなっていない。


 俺のそんなモヤモヤは、ゲームに没頭することでしか解消されなくなっていた。


「……散歩でも行くか」


 ガチャで爆死した後には気分転換にかぎる。俺は、家をそっと出た。


 近くの公園に差し掛かる頃、俺は公園で遊んでいる子供たちの声に気づいた。子供たちは、めいめいの興味のある遊びに没頭しながら、心から楽しそうに笑っている。俺にもあんな時期があったのだろうか。


 子供たちの目には一点の曇りもない。朝見た鏡の中の俺は、目が濁り、顔もどこかやつれている、さえない20代のおっさんだ。どうして、こんなことになってしまったのだろう。きっとあの頃には色んな可能性があったはずなのに。

 

 一人でそんな暗い気持ちになっていると、子供の一人がボールを追いかけ、道路に飛び出した。公園の近くには交差点があり、車もたまに通る。そして道路の向こうからトラックが速度を飛ばして走ってきているのを見かけた。


「おい、あれ危ないんじゃないのか……?」


 俺は呟くと、思考よりも先に体が動いていた。飛び出した男の子は、近づいてくるトラックをただ茫然と見つめている。間に合え、間に合え!


 次に気づいた時、目の前は青空だった。頭を動かしてみると、男の子は道端で泣いているようだが、目立った傷は擦り傷ぐらいのようだ。良かった……と思った瞬間、俺の身体に激痛が走った。


 頭を持ち上げ、体の方を見ると、身体からは暖かい液体が流れていた。赤い。紅い。それは、スマホの画面に映った魔法石の色合いにもよく似ていた。俺はもう自分が助からないことを悟った。


 最後に一個ぐらい、人の役に立てた、かな……


 俺の意識は、そこで途絶えた。


■□■□■□■□■□■□■□■□


「おや、新しい魂がいるのう」


 誰かが話している声がする。


「生前は……自堕落な生活を送っていた、社会で何の役も立っていないゴミか」


 誰かが語り掛けている声がする。


「最期は、ふむ。一人救ったようじゃが……」


 それは、威厳のある声で、言い放った。


「こんな魂、いくらでも天界に送ったものじゃが、そうじゃな。わしの気まぐれで悪いが、もう少し人の役に立ってみんか?」


 どうでもいい。


「どちらでもいいなら、決定じゃな。ひとつおまけをくれてやる。すべてが運否天賦、強力であり貧弱な力。これを活かして、新しい人生を歩むといい。」


 新しい、人生……?


「そうじゃ、お主が好きだった、あの世界に近い世界を選んでやろう。ふぉふぉ、新しい人生では、うまくやるんじゃぞ」


 俺が、好きだったもの……?


 瞬間、俺は光に包まれた。それは、暖かいような、優しい光。俺が何十年も前に得たようなそんな感触。全ての今まで見てきた景色がパノラマになり、俺は、光に吸い込まれていった。


「お主は、武器をなんでも召喚することができる。ただし――運次第でな」


■□■□■□■□■□■□■□■□


 次に目が覚めた時、俺は草原にいた。周辺には、背の低い草が生い茂っていて、遠くには山や村も見える。


 俺は、どこまでも広い草原の草を踏みしめていた。


「異世界……?」


 俺はふとそんなことを呟いた。それぐらい、見たことのない世界だった。


 あの公園に、こんな場所は存在しない。俺は、どこかに飛ばされてしまったのか……


 空は、どこかに濁りを見せた、現実のあの青い空ではなく、吸い込まれそうな蒼い空だった。


「夢でも見てるのか?」


 俺は頬をつねってみる。痛い。夢ではないようだ。そもそも俺はトラックにはねられて死んだはず。


 体を見渡してみると、どこも怪我はしていない。というか何故かつるつるの肌だ。まるで高校生の頃に戻ったような……


 衣服も変わっている、半袖の白襟シャツに、ブラウンのベスト、下はチノパンだろうか。しかし、素材は売っているようなものとは違うようだ。そもそも、俺はこんな服を持っていない。


 そして何より、左腕に奇妙な銀の腕輪がはめられている、腕輪の真ん中には、紅い宝石のようなものが埋め込まれていた。


 腕輪に触れると、突然目の前にウィンドウが現れた。


 

【提供割合】


【SSR】1%

【SR】3%

【R】40%


「なんだ、これ?」


 見覚えのある表記だが、何の確率なのか、どういうことなのか分からない。もう一度腕輪に触れると、ウィンドウは消えた。


 その時、突然村の方から悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴だ。


「きゃああああああ!!」


 村の方に目をやると、何か巨大なものがうごめいている。太い体躯に、とんでもない全長。薄い茶色の体表には斑紋が無数に走り、その物体の不気味さを加速させていた。


 あれは、蛇なのか。


 その物体の近くに、女性がいるのが見えた。村娘のような恰好をしている金髪の女性は、大蛇に襲われているようにしか見えない。考える間もなく、すぐに俺は村に向かって駆けだした。


 子供を救ったあの時と同じように、俺は身体が勝手に動いてしまった。


「大丈夫ですか!」


 俺が大蛇の後ろまで駆けつけ、腰を抜かしている女性に呼びかける、大蛇は俺の気配を察知すると、こちらに向き直って舌をチョロチョロと動かした。やばい、ターゲットされた。


「危ない、逃げて!」


 村娘が叫んだのと同時に、大蛇はその巨体の尻尾を持ち上げ、俺に叩きつけようと準備をする。


 ああ、今回も無鉄砲なことしてしまったかな……


 また死にたくないな、そんなことを思っていると、腕輪が強い光を放った。


 すると、さっきのように目の前にまたしてもウィンドウが現れる。


 【武器召喚ガチャを引きますか?】

     はい  いいえ


「なんだよこれ!? 今はそんな場合じゃ……」


 【武器召喚ガチャを引きますか?】

     はい  いいえ


「いいから邪魔だ! はい!」

 

 俺は迫る大蛇の尻尾への危機から、適当にウィンドウを押した。


 ――瞬間、右手に違和感を覚える。


 そこには巨大なハンマーが現れていた。凄まじい力を感じるそれは、俺がゲーム世界でもよく見た武器だった。


SRスーパーレアトールハンマー!?」


 大蛇の尻尾が眼前に迫る、俺はやけくそになってハンマーを振りかぶった。


「くらええええええっ!」


 ハンマーを振り抜いた前方に走る衝撃破。それは、大蛇を全て飲み込んでいった。


 そして、一呼吸経つと。大蛇は跡形もなく消え去っていた。さきほど召喚した武器も、気付けば消滅してしまっていた。


「ええっ! 一撃!?」


 大蛇が死んだ、一撃で。


 どこかに隠れていたのだろうか、村人たちは大蛇がいなくなったのを見て、ぞろぞろと姿を見せてきた。助けた村娘はこちらを潤んだ目で見ている。


 ――あれ、俺大変なことしちゃったんじゃね?


 人生はガチャの連続だ。生まれる時代ガチャ、生まれる場所ガチャ、才能や容姿ガチャ……つまり、自分の武器であるものを引くことができるかのガチャ。


 俺は後になって思う。あの時、もしNノーマルの武器を引いていたら、どうなっていたのだろうか、と。


「村の英雄だ! 勇者様だ!」


 村人の歓喜の声とともに胴上げされながら、俺はそんなことを思うのだった。

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