第4−2話 海賊たちの声〜キャプテンの決意とアリスの決断〜
***
キャプテンになりきっている啄木は、完全に“モード”に入っていて、それを自分のものにしていた。ここまで、ほかのみんなが作ってくれた舞台は、リハーサル以上の出来だった。本当に、一人一人がその登場人物であるかのようにふるまい、話し、表情を作っていた。
ちょうど舞台は半分終わり、大方の役は入れ替えが起こり、さっきまで観客席の近くでスポットを担当していた啄木は、少し寒さを感じながら一つ場面を演じきった。副船長をしていた子に至っては、女子なのにも関わらず、前半に出ていた誰よりも男らしかった。普段とのギャップに驚いたぐらいだ。
「この劇のために髪切ったんだよ。舞台、絶対成功させようね!」
短くなった髪の毛先を触りながらそう言ってくれた、役決めの時に書記を任せた弘子が、だれも手を挙げなかった副船長役二に立候補したのは、さすがにクラスもどよめいたようだ。普段から舞台の勉強をしていた彼女の演技は、まさに役者のように思えた。それはもちろん、だれもが期待していた通りだった。
そうだ。みんな本気なんだ。みんなの言う“モード”に入ったのだろうけど、何かが足りない。それを早く見つけなくては。そう決意を固めながら、啄木は暗黒の中、上手に去った。
***
ここは、島一つがそのまま一つの王国となっているボータ島。その島に食料調達のためにキャプテン一行が立ち寄っていた時、事件が起こった。近頃、この島の周辺で悪名高い侵略ギルド「マカタ」が、島を侵略しようと押し寄せてきたのだ。王宮ではパニックになっていた。
「村のものは知っておるのか!?」
「いえ、海が見える街なら異変を感じていると思われますが、特に山奥のヤシ村なんかは、全く知らないかと……」
「あああ、一体どうしたらよいというのだ!」
頭をかきむしる王を見て、姫は提案をする決意をした。
「王。提案がございます」
「ん、なんだ、アリス」
アリスは、窓の外を指さした。
「このままでは、住民の避難、島の護衛、どちらも多くの犠牲を払ってしまいます。そこで、今この島には、キャプテン海賊団がいるとの情報があります。もし、彼らに協力してもらえたとしたら。成功する確率は格段に上がることでしょう」
「島を救うためとはいえ、海賊なんぞに手を借りるというのか!」
「王! いつまでそんな意地を張っておられるおつもりですか! 私は、彼らにかけてみたいのです。もし、彼らを使わなければ、私たちは捕まって殺されるか、一生こき使われるかの二択です。もし、王が海賊に頼ると死ぬと思うのなら、どちらにせよ、これが私の最後の願いとなります。この願い、叶えていただけませんか!」
アリスの目は本気だった。これが私の娘かと思うと、王は自分が情けなくなった。私は一体どうしていたというのだ。自分が認めたくないがゆえに、自分の事情だけでこの島を捨てようと、本能がそうしようとしていたのだ。王たるもの、常に冷静温厚でなければならないという父上の言いつけを破るところだった。そうか、アリスももう子供ではないのだな。
「王、外出の許可をください。必ず、彼らを説得してきます」
「わかった、行っておいで、アリス」
久しぶりに聞いた、父上の優しい声。そしてその声で私の名前を、呼んで、くれた。私はこの島を救わなければならないと、そういう定めの下生きてきたのだと実感できた。
「行ってきます!」
街についたアリスが見た景色は、想像の先を行くものだった。何ということだろうか。海賊が島の警護に当たっていた王国兵と協力して住民の避難をしているではないか。それらはすべて効率よく、順調に進んでいた。
「あの、そこのお嬢さん」
「は、はい?」
黒いマントを羽織った男が話しかけてきた。
「お嬢さん、この国のお姫さんでしょ。すまないね、勝手にこんなことしちゃって」
「あ、いえいえ。そんな、とんでもないです。ありがとうございます。この国を代表して、お礼申し上げます」
「いや、お礼とかいいから。ところで、もうここが二一か所目の村なんだが、これで終わりか?」
「あ、山のほうにもう一つ村が、あっ、そういえば、そこには子供たちがたくさんいるんです」
「なるほど、そこには一応船員にはいかせたんだが、子供ともなると隠れている可能性もある。よし、案内してくれ」
「ええ、こっちです」
「おい、セナ! ここの指揮は頼んだぞ!」
「ハイサー! 船長!」
二人はかけていった。
「おい! もう避難は済んだのか!」
「ハイサー! と言いたいところですが、あいにくこの村広すぎて、見落としがあるかもしれません」
はっ、とキャプテンの中に何かが走った。
「ヘクト、このお嬢さんを連れて王宮へ行け! 護衛終了後、すぐに合流しろ!」
「ハイサー! 船長!」
***
三人はすれ違った。
お前、今一番いい顔をしてるぞ。男仁、惚れそうになるぐらいな!あとは任せたぞ!しくじるなよ!
もちろんさ、任せてくれ。ここからのクライマックス、俺は自分を捨てる。本気を見せてやろう。俺ら、最高のチームの力を!
***
キャプテンは走った。直感の指し示すままに。たどり着いた先には、がれきに埋もれた少女がいた。自分では動けないようだ。
「おい! すぐどかす! まだ生きてるよな。待ってろ!」
キャプテンは思い切りがれきを持ち上げて、投げた。これほど昔から続けていたトレーニングに感謝したことはない。
「よし、大丈夫か!」
「だ、大丈夫だけど、足が動かないの」
少女はこちらを見上げた。
***
啄木は、こちらを見上げる楓の目を見て、ドキッとした。彼女は、もはや啄木の知る楓ではなかった。本当に、少女だった。設定上は高校生ぐらいの年代にしておいたのだが、明らかに楓は小学五年生の顔つきではなかった。
その時、啄木の中で何かが光った。
そうか、俺はキャプテンになりきれていなかったんだ。前から痛感していたことだったが、解決策が見つけられずにないがしろにしていた。でも、この時は違った。自分に足りないものが分かったのだ。
「マイナー、船長は、仲間のみんなに責任を持つことが必要なんだ。仲間が困ったときは助けてやる。たとえ、自分の命に代えてでもだ。そして仲間をまとめなくちゃいけない。仲の悪いやつらがいたら、その間に入って手を取り合わせる。いざというときのためにだ」
そのために足りなかったのは、自信だった。
何をなすにも、自信をもってやらなければ、みんなを不安にさせる。俺が何かが足りない、何かが足りないって模索する、その迷い自体が俺をキャプテンから遠ざけていたのだと分かった。
もう、何も怖くない。今の自分は完璧だ。
なぜなら、みんながいるから!
「もう安心しな。こっちが優勢だ。一応、安全な場所に行こう、ほら、背中に」
優しく、キャプテンは語りかけた。
そこには、たくましい背中があった。いろんなものを背負い続けて成長したその背中は、私には、もうすでに遠くに行ってしまいそうなものに見えた。私は、その背中に抱きついた。
「しっかりつかまっていな!」
「わかった!」
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