第2編 ヒガンバナは貴女の手に咲く

舞台「ヒガンバナ」

「なあ皐月さつき。最近俺の母さんがお前に会いたがっているんだけど、どっかで会えないか?」

「うーん、どうだろう。僕はいつでも会え……あ、でも今週末は早希さきと会うから無理だ」

「そっか、お前彼女持ちだもんなー」

「柿原、ちょっと怖い」

「あ、また柿原って言った。弥生やよいって呼べって。おれも皐月っていてるんだから」

「でも、いきなりはきついって」

 かきは……弥生はいつも通りかっかと笑った。

 あの不思議な事件からもう二週間がたった。皐月は相変わらず教室の隅で小説を書き続けていた。タイトルは「舞台『ヒガンバナ』」だ。自分の実体験を思い返しながら書いている。しかし、以前と変わったのは……。

「秋村くん。今日の放課後ちょっとだけ来てくれない? ちょっと気になるところがあって」

「ああ、いいよ。でもそこからの勧誘の流れだけはなしで」

「それはどうかな?」

 笑いながら吹奏楽部員の子が去っていった。

 あの出来事が起きてから、皐月は少し―――どころかかなりいろんな人と話すようになった。そして、それまで忌み恨んでいた音楽への免疫もだいぶ回復したようだ。

「お前も変わったな。やっぱり彼女がいると余裕出るんかなー」

「おい弥生やめろよ! そのせいでこの学年の中で『あいつ、彼女いるらしいぜー』『え、あの根暗で全然話さないあいつがー?』って噂たてられているらしいから」

「いいじゃん。その方がお前も頑張るだろ?」

「そういう問題じゃないって!」

「で、話し戻すけど」

 弥生は手をパンとたたいた。

「でた、都合悪くなったら話し変える癖」

「あんなことあったら変わるよな。もう二週間たったからな」

「あんな非日常の後だったら二週間たったのかどうかもわからないな」


 これはほんの一か月前の話にさかのぼる。

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