キャベツ畑を探しに行く片思い百合JK
赤ちゃんはキャベツ畑からコウノトリが運んで来るらしい。歳の離れた兄と姉を持つモモは物知りだったので、引っ込み思案で友達も少ない一人っ子の私は色んな知識をモモから得た。
小学校二年生の夏休み、誰から聞いたか忘れたけれど、赤ちゃんはコウノトリが運んでくると私は思っていた。
モモに聞いてみたところ、キャベツ畑から来るという話もあると教えてくれた。
きっとキャベツ畑で生まれて、コウノトリが運んでくるのだろうと二人で推測していた。
そんな折、こども園のお迎えの井戸端会議で近くの畑にコウノトリがいたと近所のママさんたちが話していた。
きっと赤ちゃんが生まれたので、運ぶためにコウノトリがやってきたのだ。
私たちは大人の会話の横で顔を見合わせた。
暇を持て余す夏休み、私たちは近くの畑を目指して旅に出た。
私は自転車を持っていたけれどモモは持っていなかったので、二人で歩いて畑を目指した。
良く行くスーパーの向こう、ずっとまっすぐ。
大人の会話から得た目印は、ハンバーガー屋の看板。
小学生の子持ちが買い物に行くとなると車がメインになるような郊外の街のこと。
私もモモも親に連れられて行ったことは何度もあるけれど、最寄ではないそのスーパーに歩いて行ったことは無かった。
曲がり角が少なかったため迷うことは無かったけれど、とてもとても長い道のりに感じた。
そこから更に、畑までは長い長い道のりだった。
たどり着いた畑はキャベツ畑ではなく見知らぬ草が生えていた。
今になって思えば、恐らく大根だったように思う。
コウノトリもいなくて、ハンバーガー屋の看板の下にしばらく座り込んでから、私とモモは帰るしかなかった。
長い長い道のりを引き返すモモのがっかりと、私のがっかりは似ていたけど少し違っていた。
モモとふたりで、キャベツ畑でコウノトリに会えれば、コウノトリにお願いすれば、モモと私の赤ちゃんが生まれるんじゃないかなって思っていた。
帰り道のモモの残念がる言葉を聞いた私は、その望みを思っているのが私だけだと気付いた。
私の思うのだけが、少しだけ重かった。
「こんなに近かったんだね~」
大きく息を吐いて感慨深く、モモが周囲を見渡す。
「すっごく遠くまで頑張って頑張って歩いたような気がしてたけど……小学生の感覚ってすごいね」
思い出から引き戻された私はモモと同じような表情を作った。
遠い昔を懐かしむ私たちは、あれから同じ制服を着て中学校へ通い、そして今は違う制服を着ている。
「歩幅も、時間の感覚も変わっちゃったんだね。あ~老いた老いた!」
女子高生というものは年齢を重ねることを老いと表現する生き物なのだ。
言うほどに衰えなど感じてはいない。変化はすべて老いと言ってしまいたい。
成長していると、言えるほど自分の生きてきた成果に自信を持てないので。
小学校の、二年生。
道すがらすれ違った子供が、そのくらいの年齢だっただろうか。
あんなに小さかったのが、今はこんなに大きくなって、長い時間を経て、私の心はどれだけ変わっただろう。
存在しないキャベツ畑に居るかもわからないコウノトリを探しに来るなんて、幼いころの無茶を真似る私たちはどれだけ変わることができただろう。
目的地に到着したものの、とくに用事はない。
私もモモも来た道を引き返し始めた。
「駅前のクレープ屋さんが半額セールやるんだけど、モモって来週の木曜とか空いてる?」
「半額とか最高じゃん倍食べれる!えっと、木曜……」
スマホのスケジュールを確認したモモが少しだけ困った顔をする。
私は慌ててフォローを入れた。
「先約あるならいいよ!」
「ごめんね~アイツほんと記念日大好き男でさ~」
告白されたから付き合ってる。という彼氏のことを、モモがどのくらい好きだか、私は知らない。
「モモに食い尽くされるクレープを見れないのか~! ま、そのうちまた半額セールやるっしょ。次よろしくね~!」
告白なんてきっと永遠にできない私が、モモのことをどのくらい好きだか、モモは知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます