3分で読める短編【つまみ食い歓迎】
たかむら
朝起きたら隣のぬくもりが消えていた【モフモフ】
カーテンの隙間から朝日が漏れて、薄暗い部屋を光の帯が分断している。
布団の中で手足を伸ばした。
体温の移った部分はあたたかいが、伸ばした指先にはひんやりとしたシーツの感触だけがある。
自分の温度しかないベッド。
まどろみながら、暗闇の中で探ったぬくもりの記憶はたしかにあるのに。
今ここにはもうない。
重い息を吐いてベッドから抜け出す。
朝の冷えた空気が体を冷やす。
俺はもう一度、ため息を吐いた。
扉を開けて廊下へ出ると、甲高い声が耳に刺さった。
「昨日もきゃわたん! 今日もきゃわたん! きゃわたーん!」
朝からテンション高すぎないか。身内ながら引くわ。
「カリカリもうないよ、おしまいだよぉ! スリスリしてもダメなのにゃぁあ……ああぁ……」
残念な声が身悶えている。ダメだ、これ懐柔されちゃうやつだ。
俺は知ってる。こいつは意志が弱いのだ。
「ちょっとだけね! 内緒だからねぇ! イエース! 投入っ!」
相変わらずのテンション。内緒話の音量じゃない。
器にドライフードが盛られるカラカラという音が響く。
「んなー」
「んなー! うれしいね!うれしいねネコチャ……あ、おはよう」
おはよう姉ちゃん。
俺より少しだけ早く起きるあんたのおかげで俺はそいつと朝を迎えることができないんだが。
心に浮かんだ不満を口にしてしまうと、にやにや顔でネコチャン大好きだねえとか言われるので、口には出さない。
姉ちゃんのほうが余程大好きじゃん。なんて言いかえすことはできない。
「おい、お姉さまにお返事しろよ。お姉さまがおはようって言ってやってんだぞ」
「……おはようございます」
「んっふぁー! ふわっふわのネコチャンが! ネコチャンがスリスリしちゃうねぇー!」
「んなー」
今日も、一日が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます