『八日目の蝉』とオリーブの小枝〜小豆島の思い出

早く屋久島のことも書きたいのだけど、長くなりそうなので、なかなか腰を落ち着けて取り組めない気分で。

忘れちゃわないうちに、とは思っています。


さておき。

最近、朝の連ドラを見ていたら、たいまつを持って歩くお祭り(信楽地方の火祭り?)というのが出てきて、前から書きたかった話をまた思い出したので、今日はそれを書きたいと思います。


**


小豆島と言えば、昔は、『二十四の瞳』。

そして、今は、(まあ、未だ上記も健在でしょうけど)角田光代さんの『八日目の蝉』というのも、アリじゃないですか?


この小説、私は新聞で連載されてる時に読んでいて、新聞なので、毎日先が早く読みたくてしょうがなかったです。その後、ドラマ化されたものも、映画も(地上波テレビで)見ました。けっこう好きな作品です(※作中、たいまつを持って歩くお祭りが出てきます)。


四国と瀬戸内界隈に旅行した時は、でも、この作品のことはあまり頭になくて、むしろ、子供のころに古い映画で見て離島の小学校の先生になりたいとまで思わされた、「二十四の瞳」の方に心が向かっていたのでした。


行ったのは、ものすごく暑い日でした。

路線バスに乗って島内観光をしていたのだけど、乗客はほとんど有名な醤油蔵の集まるあたりで下りてしまって、ほとんど私一人(地元の人は少し乗っていたっけかな?)でバスに揺られて、けっこう遠い「二十四の瞳」のいろんなものが展示されてる所へ行きました。


もうあまり記憶が定かじゃなくて申し訳ないけど、そこはロケで使われた小学校跡とかだったかも? しれない。そして、私以外、まったく誰もいないのです。


静かで、古くて、木の独特の匂いがする。まるで異空間みたいで、知らない間にタイムスリップしちゃってもおかしくないような雰囲気。

12人の子供たちが、教室の隅っこから走って出てきたらどうしよう!? くらいな感じで。


ちょっと不思議な気分にゾワゾワもしながら、でも静かに展示を見て回って、外へ。

近くには売店があって、お土産売り場のほか、ちょっとした食べ物飲み物も提供されてるふうでした。


ぶらぶらと見て、ふと気づくと、帰りのバスまでかなり間がある。

暑いし、もっとほかに見たい場所もあるし、バスを待っていたら時間も体力も浪費してしまう。

これは、いつもの観光タクシー作戦を発動させるところではないか!?


と、考えた私は、お店の人に訊いて、タクシーを呼ぶことにしました。それでも多少は待たされるけれど、あとは車でできる限り見たいところを回ってもらえばいい。バスに乗るよりは効率的です。


そして、立派な黒塗りのタクシーがやってきました。


運転手のおじさん——ビミョーにおじいさん一歩手前な感じの——は、とても礼儀正しく、でも親しみやすい感じで、手持ちのルートに添っておすすめのスポットを提案しながら案内してくれました。もちろん、解説つきで。


その中に、『八日目の蝉』のロケが行われた場所があったのです。


あぁ、確かに、小説の後半の舞台は小豆島だっけなぁ。


私がその作品を読んだり見たりしたことがあるとわかると、おじさんは助手席に積んでいたらしいラミネートされた新聞記事を渡してくれました。


「実はね、私、この小説を書くために取材に来た角田光代さんを、タクシーで丸一日案内したんですよ。私の方でも、島内で見せたい場所をピックアップして」


えーっ、ホントですか!?


私のテンションはマックス。すぐに、話に食いつきましたよ。

それから、ここも見せた、あそこも見せた(もう具体的には忘れましたけど 笑)、と言いながら案内してくれました。


作品が書き上がった時、おじさんは角田さんから「おかげさまで書き上がりました。おじさんの案内がなかったら、この小説は書けなかったと思います」っていうようなお手紙をいただいたそうです。


そして、ラミネートされていた新聞記事とは、その小説で小豆島が脚光を浴びることになり、そこに多大な貢献をしたということでタクシーのおじさんが表彰された、という記事だったんです。


それも含めて話がすごく楽しくて、私は本当にラッキーでした。

もし、あの日、あんなに暑くなかったら。

もし、訪れた二十四の瞳のスポットがあんなに遠くなかったら。

もし、帰りのバスがもっと早い時間に来るんだったら。


——タクシーは呼ばなかったと思います。


最後の方に、オリーブ園のような所に連れて行ってくれたおじさん。

タクシーに戻る時に、落ちていた小さな枝をくれました。


私は帰って来てから、その枝を土に挿しました。

ずいぶん長い間枯れずにいたけど、気づくと成長もしてない。根付いてないんだろうなと思ってそっと引っ張ってみたら、スルッと抜けて、まるでドライフラワーみたいにカラカラでした。

調べてみると、オリーブは単独では成長しないみたいなことが書いてあって、こりゃメチャクチャ単独だよね、って思って、残念だったけど捨てました。


そして、主のいなくなったその小さな鉢植えポットを、いつものように面倒なのでそのまま放っておいたら、しばらくたって雑草のようなものが生えてきました。

それでも面倒なので、なおもそのままにしていたら、何だか途中からスクスクと育ち、夫が「ねえ、この葉っぱの形、何かに似てない?」と言ったのです。


確かに。

私もうすうす気づいてました。オリーブの葉に似ていると。

でも、まったく根付いてなかったはずでは?

だから、まさかと思ってました。


でも、それからもどんどん育ち、見紛うことなきオリーブの枝(細い幹?)になっていったんです。


そのカラクリはさっぱりわからないけど、今もそれは小さなポットから30センチ以上の長さにそびえています(笑)。


そして、毎週、オリーブに水をやりながら、タクシーの運転手さんと小豆島、角田光代さんとあの小説のことを、思い出している私です。。。



※四国と瀬戸内のあたりの景色が大・大・大好きで、この時かなわなかった「しまなみ海道」ドライブ(またはツーリング?)をいつか絶対したいと思っています!!

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