第22話「そこ、『今更?』って言わない」

「マドモアゼル、次の催しを考えたいんだけど……何か、いい案はないかい?」


 廃病院から出たところで、フィリップさんに尋ねられた。

 指を顎に当て、なかなか真剣に考え込んでいる。


「うーん……あのメンバーで盛り上がりそうな催しかぁ……?」


 どうせなら、彼らの故郷にちなんだものとかがいいよね……とか、思ったけど……。

 アリシア前世の記憶を手繰り寄せても、なんか、ひらめかない。うーん……記憶もまだぼんやりしてるし、成人以後は日本にいたし、スペインとフランスは違うしなぁ。


「……分かんない。日本史選択だし……」


 答えたとき、思わず思考が漏れてしまう。

 まあ……日本史選択は関係ないかもだけどね? 世界史選択だったら思いついたとも限らないけどね?


「日本史……?ㅤなるほど、興味深い響きだねぇ」


 そこ?ㅤそこなの?

 おもむろにフィリップさんは脚立を用意し、「殺人チェス道場」の看板の文字に白いペンキを塗り始めた。……そうやってリサイクルしてたんだ……?


「失礼いたします」


 ……と、霧島さんが姿を現した。また、突然。音も立てずに。

 本当に何者なんだろう……?


「貴女のお友達は、アーベル様、ノエ様が運営する劇場におられるそうです」


 ……ん?ㅤその情報、なんか、最近聞いたよ……?

 首を捻っていると、横からキャスリーンさんが口を出す。


「あら、ごめんあそばせ霧島。もう伝えておりましてよ」

「……えっ」


 初めて、霧島さんが狼狽える姿を見た。……案外、人間だった。

 とはいえ、ここにいる人達、どこまでが人間って言えるんだろう……?ㅤまあ、死者とはいえ、元人間なのは間違いないか。

 龍もいたけど。


「……どういたしましょう。用事が無くなってしまいました」


 わざわざ伝えるためだけに来てくれたんだ……。霧島さん、もしかして、優しい……?


「1000年ほど生きていると、暇を持て余すものでして」


 私の疑問を察したように、しれっと告げる霧島さん。

 それは冗談なの?ㅤそれとも本気なの?


「あら、一緒にアーベル達のところに行って差し上げたら?」

「……ふむ。ノエ様のところには性別を超越した麗しい方がいますので、気にはなりますね」


 キャスリーンさんの提案に、霧島さんは迷う様子を見せた。

 性別を超越……?ㅤ中性的な美人ってこと?ㅤそういう人が好みなのかな?

 なんて考えてるうちに廃病院の扉が開く。


「悪ぃ悪ぃ、額をどうにかしてたら遅れちまった」

「……やっぱ、化粧は嫌ッスか?」

「まだ未練あんのかよ。お前んとこの上司で満足しとけよ……」


 ……カイさん、ユージーンさんが会話しつつ追いついてきた……と、思ったら、霧島さんはまた姿を消していた。


「先に行きたくなったみたいですわね」


 早っ。行動力の化身かなー!?


「私もごめんあそばせ。ストッキングについてアンリと話がありますもの」


 キャスリーンさんは優雅に一礼し、廃病院のほうへと向き直る。

 なんでストッキング? アンリくん、ストッキング好きなの?

 あ、奥のほうから「なんで私!?」って悲鳴が聞こえる。


「もちろん、フィリップも参加ですわよ。ストッキングは撲滅されるべきか否か……そして、真の平等とは何か……興味深い話題ではありませんこと?」

「HAHAHA! イイね! 君のエキセントリックな思い付き、嫌いじゃないよ!」


 さっそく看板に「ストッキング撲滅」と書きながら、フィリップさんは大きく頷いた。

 ツッコミがもう追いつかない。


「……首ポロについてはどうなんスかね」

「お前はボディーガードの仕事があんだろ!」


 未練がましそうに振り返るユージーンさんを、カイさんがバシっとしばく。

 うーん……ひょっとしてこのカタコンベ、どこもカオス……?

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