第21話「消えた語彙力」

 本日の「殺人チェス」の勝者はキティさんことキャスリーンさんでした。

 いやぁ、すごかったです。言葉にできないとはこのことですね。

 ここに来て一番の恐怖を味わいました。さすがはマフィアの一人娘。強かった。それしか言えない。


「ふふ、今後も楽しみにしておりますの」


 優雅に一礼するキャスリーンさん。


「次回は……加減願いたいね……」


 額がぱっくり割れてるカイさんが苦笑している。


「加減なんていらねぇッスよ。もっとガンガンやっちまって欲しいッス」


 ユージーンさんはキャスリーンさんと戦う前にカイさんに敗北していたから、つまらなさそうだ。


「うーん、やっぱりキティさんは強いねぇ……そろそろルール改正しようかな……」


 自分の指をくっつけている途中のフィリップさんも、カイさんと同じく苦笑している。


「参加しなくてよかった……。なぁユキさん」

「うん、ほんとに」

「あの見事な正拳突きストレートはしばらく忘れられないな」


 一緒に観戦していたアンリくんは、なんだかんだで楽しそうだ。

 格闘技の試合を見ている感覚だったのかも。……それは、うん、わかる。すごくわかる。


「……おっと、片付けの時間らしい。私はフィルを手伝ってくる」

「あ、そ、そうだね。行ってらっしゃい……」


 少し名残惜しい気持ちもあるけれど、手を振ってアンリくんを見送る。


「……恵子……」


 一人になると、ついつい色々と考えてしまう。

 結局、恵子ケイトは姿を現さなかった。

 彼女の思惑が見えてこなくて、どんどん不安になってくる。

 私たち、本当に友達なんだよね……?


「ところでカイ、この後暇ですの?」

「……ん?ㅤ特に用事はないが、どうしたよ」


 ……と、カイさんと話している最中のキャスリーンさんと目が合った。


「実は……このお客様をアーベルのところに案内してもらいたくて」


 私の方を視線で指し示しつつ、キャスリーンさんは告げた。


「アーベルの?ㅤそりゃまたなんで」

「ケイトが、そこで待ち合わせをしたいのだとか」


 にこりと私の方に笑みを向けて、キャスリーンさんは言葉を続ける。

 ……い、いったい、何を考えているんだろうか。


「アーベルは音楽が好きでね。ノエという青年と2人で劇場を管理しているんだよ」


 後片付けの手を一旦止めて、フィリップさんは私に教えてくれる。ぶっ飛んでるようにも見えるけど、なんだかんだで親切だ。

 それにしても、劇場……。ケイトは、何をするつもりなんだろう。


「ところでユージーン、アーベルは総受けだと思うんだけど君の見解はどうだい?」

「なんで俺に聞くんスか」


 そして、フィリップさんとユージーンさんはなんの話をし始めたんだろう……?

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