第11話「先生、なんだか硝煙の匂いがします」

「ともかく、その様子を見るに……本当に何も知らないんだね?」

「知りません!ㅤその……恵子がどうしても一緒に肝試しに行きたいって……」

「……ふむ」


 正直に経緯を告げると、ティートさんはちぎれていない方の手を顎に当て、考え込んだ。


「そうなると……むしろ、ケイト……君にとってはケイコさん、かな。彼女が君をここに招き入れたことになりそうだね」

「恵子が……?ㅤいったい、なんのために?」

「さぁ……。残念だけど、そこまでは分からないな。でも、少なくとも君は巻き込まれた側だろう」


 ニコリと笑うティートさん。

 どうやら、私の言い分を信じてくれたらしい。うう、ありがとう。紳士って、きっとこういう人のことを言うんだ。


「アマデオのことは気にしなくていい。レッジ・ファミリーの幹部でありながら、なぜか死後女装癖に目覚めているような変人だしね」


 アマデ……アマンダさん、組織の幹部だったんだ……。それにしては、ティートさん、扱いがぞんざいじゃない?ㅤコンシリエーリ……?がどういう役職か、よくわからないけど……。


「あらぁ、泣く子も黙るアベッリファミリーの相談役コンシリエーリのくせして、ずいぶん可愛こぶってるのねティート」

「何のことやら」


 ……あれ?ㅤ同業者ってもしかして……同じ組織とかでなく……。


「うふふ、昨日の敵は今日の友よ、シニョリーナ」

「たとえ過去に殺し合っていたとしても、それはそれ。今は酒をくみかわせるくらいの仲だね」


 殺し合っ……よーし、これ以上は踏み込まないでおこう。裏社会は怖いからね!ㅤ地下世界も怖いけどね!


「ごめんなさいねぇ。アタシったらついカッとなっちゃって」


 にこにこと、人が良さそうに笑うアマ……ンダさん。良かった……敵判定からは逃れられたっぽい……。

 それにしても、片腕がない人と片目がない人かぁ……。ゾンビとしてでも怖いけど……チンピラとしてだと考えると、余計に怖い。


「……それにしても、恵子……どこに行ったんだろう」


 それに、恵子はどうして私をここに連れてきたんだろう。わからないことだらけで、不安になる。


「何シケた面してんのよ。ここがそんなに気に入らない?」

「し、正直に言いますと、私……ホラー映画苦手だし……」

「あら、アタシがホラー映画の住人に見える?」


 確かに、今は見えない。

 アクション映画の住人に見える。すごく二丁拳銃とか使いそう。


「変な常識に囚われんのはやめなさいね。アタシも、そういうのとっぱらって楽になったんだから」


 なるほど、自分に正直になって、マフィアの幹部からオネェさんになったんですね。

 いや、普通にすごいよねそれ。人生(※死後含めて)だけでドキュメンタリー映画ができる勢いだよ?


「昔から女装には憧れていたらしいねぇ。……まあ……蝶や花かと言われたら……蛾、くらいにはなっているんじゃないかな」


 ティートさんが苦笑しつつ補足した。

 まあ、うん、ガタイはいいよね。タトゥー入った腕とか、ムキムキだもんね。


「誰が蛾だテメェの眼球もぶち抜くぞオラァ」

「おや、久しぶりにロシアンルーレットでもやってみるかい?」


 ヒィイ、冗談が物騒だよぉおお……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る