海月的リボン

エリー.ファー

海月的リボン

 好きな女の子がいるので、その子のために、リボンを買いに行くことにした。

「へぇ、好きな女の子がいるんだ。」

「うん。僕はその子のことが大好きなんだ。」

「その子はどこにいるんだい。」

「町一番の病院で今も眠っているんだ。だから、僕がプレゼントを買いに行って喜ばせてあげるんだ。そしたら嬉しくて飛び起きるかもしれない。」

「それは名案だ。」

 僕はそう大人たちに言われて、隣町までリボンを買いに行く。

 途中スライムやら、何やらが湧いて出てきたけど、好きなソシャゲが一緒だったことで意気投合、付いてきてくれることになった。

「好きな女の子のために、リボンを買いに行くなんて、なんて素晴らしい勇気だイム。尊敬しちゃうイム。」

「スライムだから、口癖がイムなの。」

「そうだイムよ。」

「思ったより安易だね。」

「殺すぞクソガキ。」

 隣町ではどうやら、盗賊が悪行の限りを尽くしているようで、とてもではないけれど、まともな雰囲気ではなかった。

 町の中心にある噴水には、多くの人間たちが疲弊した顔で寄りかかっており、そこから出る水もどこか力なさげだった。

「勇者様。」

「違うよ。」

「勇者様。」

「違うってば。」

「どうにか、お助けください。この町はこのままでは盗賊に滅ぼされてしまいます。」

「助けてあげたほうがいいイム。恩を売っておいて、後でこき使ってやればいいイム。」

「こいつらが使えるやつなのかが分からないのに、簡単に恩を売ることは難しいよ。人生の時間は有限なのに、こうやって当然のように相手の時間を奪ってまでお願いをしてくるあたりに、モラルのなさしか感じないんだもの。まずは、こいつらの教育水準というものを疑ってしまうなぁ。」

「つべこべ言わずに、さっさと助けてください勇者様。」

 意外と決着は簡単だった。

 家を出る時にもらった、ドラゴンシンバルを使うと盗賊たちは一瞬で掻き消えた。残念なことに、経験値はもらえなかったし、町民はみんな、僕のことを恐れて近寄ろうとしなかったけど、しょうがない。

「勇者は孤独だね。スライムくん。」

「今まで呼び捨てだったのに、差別的な視線で心が萎えてしまったからといって、急にくん付けで距離感を縮めようとしてもそうはいかないイム。」

「下らねぇ。二度とくん付けで呼ばねぇからな、この青色。」

 僕とスライムはとても仲が良くなった。

 正直言って。

 僕はモンスターに家族を殺されてからもう、まともに喋ってすらいなかったのだ。

 僕の心の汚い部分も、僕の心の底にあった綺麗な部分も全てさらけ出してしまった。

 彼女のために探していた綺麗なリボンを見つけた時には、もう。

「今までありがとうスライム。」

「あんまり、ありがとうとか使わないで欲しいイム。当然のことだイム。」

 僕とスライムは親友になっていた。

 明日、この町を出たらもう引き返すだけの旅になる。モンスターは皆、見たことのあるものばかりだし、レベルはこちらが上で、しかも倒し方も知っている。

 苦労することはないだろう。

 旅の醍醐味などというものはない。

 旅は終わったのだ。

「スライムはこれからどうするの。」

「人間に戻るイム。」

「え。」

「嘘だイム。」

「あ、なんだ、嘘か。」

「スライムはスライムだイム。人間にはなれないイム。元々、人間でしたとか、そういう設定はないイム。」

「あのさ、もしもなんだけど。このリボンより綺麗なリボンがあるかもしれないし、もっと遠くの町や大陸まで探しに行きたいんだけど、どうかな。」

 スライムは体を揺らせてから僕に近づくと泡を吐き出した。

「愛した女の死に顔が見たくなくて、逃げ続ける人生はだせーぞ。」

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