第13話 旅路ー4(改稿済)


「ちょっと待ってくれ、ゴブ美ちゃん」

「……? はい、なんですか?」

「クラスとか、成人の儀とか……なんなんだ? それは」


 知らない情報、転移前には無かったモノ。

 魔法とか魔物とかも存在しなかったが、それは知らないだけでもしかしたら存在したかもしれない。

 だけど、一般的な村娘が知っているようなコトを世界中を旅した俺が知らない筈が無い。

 それに成人の儀……名前から察するに成人は誰しもが経験する慣習の筈だ。

 そしてこの知ってて当然だろ? みたいな顔。

 これはつい最近出来た慣習とかではなく、昔からの伝統行事的な奴だ。

 つまり、三年前に成人の儀を済ましている俺が知らない筈が無いッ!


「え……知らないんですか?」


 ほら! やっぱりこの反応だよ。

 自分が知ってるのに人間である俺が知らないとは思ってなかったんだろうな。

 ゴブ美ちゃんは俺が100年前(怪しくなってきた)から来たって知ってるのに。

 つまり、少なくとも100年以上前からの伝統行事であり誰しもが知っている常識だと考えられるな。


「あぁ、知らん。そもそも俺は魔法やら魔物ってのも知らなかったんだ。もう受け入れたが当初は驚いたぜ」


 そう言うと、ゴブ美ちゃんは何かを考え込むように俯いてしまった。 


「……ゴブ美ちゃん? おい、おーい! ダメだこりゃ。まぁいいや、とにかくそれなりには戦えるんだな?」

「あ、はい……でも本当に知らないんですか?」

「あぁ、知らん」

「お兄ちゃんってどこから来たの?」

「バロン王国だよ、故郷はホムラの国」

「へ~、だから東方服を着てるんだね! でもどうして100年も昔に滅んだ国に行ってたの?」

「行ってたんじゃなくてそこに住んでたのさ。俺の家がそこにあったからね、まぁもうないけど」

「ふーん、じゃあお兄ちゃんはエルフなの? 100年前に住んでたってことだよね?」

「エルフ……?」

「うん、お兄ちゃんって少し耳尖ってるし! でも長くはないね、なんで?」


 なん……だって? 耳が尖ってる? でも長くはないからエルフっぽくない? というコトは、両方兼ね備えている先生はまさか……


「エルフ、だったのか……。道理で長いコト孤児院やってるのに若かった訳だ」

「お兄ちゃん何か言った?」

「あ、いや別に……俺はエルフじゃないよ」

「じゃあなんで?」

「んー、ゴブ美ちゃんのお爺ちゃん曰くセラフの迷子って奴らしいよ。俺は良く分からないけど……とにかく色々と真実を知る為に旅をしてるんだ」


 エルフじゃない、とは言ったモノの確信はない。

 だって俺は親を知らない。

 人間っぽいなりをしてるから人間って自称してるけど、事実は自分でも分かっていないんだ。

 しかし……俺の耳って尖ってたのか、なんでだろうな? まぁいいや。



 ん……? いや、ちょっと待てよ。

 セラフが現れるのは100年周期、でバロン王国が滅んだのは大体100年前……って言ってたよな? よく考えてみたら、爺さん俺が100歳ぐらいのエルフだとでも勘違いしたのか?

 それともセラフの迷子は記憶そのものを塗り替えられちまうのか? だとしたら俺の歩んできたと思ってるコレは、本当に俺の……記憶なのか?

 いや! そんなコトはあり得ない、どうせ爺さんが俺をエルフと勘違いしたんだ。

 耳が尖ってるらしいし十分あり得る話だ! うんそうだ、そう思おう。


「へぇ~天使セラフの迷子って本当にいるんだ。お姉ちゃん! 私達もついていこうよ」

「え、何言ってるの! ハルはまだ成人もしてないのよ!? 危険すぎるわ」

「え~、でもお兄ちゃんと一緒に旅したい! それに私達もう行くところないじゃん。別に何処かツテがある訳でもないし村も燃えて無くなっちゃったし」

「で、でも……うーん」


 これは……どうするのが正解なんだ? ヒーローの出番! ……っぽいけど。

 あ、そうだ。こうすれば万事解決なんじゃないか?


「じゃあ、俺様の拠点でメイドとして働かないか? まだ建ててないけどな! ぬあーはっはっは!」

「メイド……それなら、確かに危なくない。でも」

「そんなに信用できないか? 俺様が。誓って冷遇などしないぞ、お前達は仲間……家族なのだからな!」

「……いや、その点については信用しています。治ると分かっていたとはいえ命を賭けて私達を助けるようなお人好しですから。しかしまだ建設されていない、将来的な拠点と言うと不安で」

「ふむ……まぁ、確かにな」


 んー、どうするか……こればかりは信じてもらうしかないんだが。


「とりあえず水を浴びてきなよ、その間に考えといてくれ」

「そうですね……分かりました」

「あ……ゴブ美ちゃんも連れてってくれ」

「あ……はい。ハル、行くよ」

「うん!」


 さて、どうしたもんかねー。

 しばらく時間かかるだろうし……もはや俺入らなくていいか? 魔導王朝着いてからでもいいんじゃね? 女の子は綺麗にしとかないとあらぬ誤解を受ける可能性があるし単純にそっちの方が俺も彼女らも嬉しいだろうから入らせといたけど。

 俺って入る必要あるか? いや、汗べたべただし入りたいけどそれぐらいだったらさっさと行っちゃった方がいいんじゃないか?


「なぁ、ルードゥ」

「なに? ウィル」

「女の子は、大衆の面前に行く前に身形整えた方が良いってのは分かるだろ?」

「うん、分かるヨ」

「俺らって入る必要あるかな? たぶん後……一、二時間で着くよな?」

「だから言ったじゃん、僕はいいよって。君は入りたいって言ってたから止めなかったけど」


 あ、成程! つまりルードゥは最初から分かってたのか。

 

「んー、女子組が上がったら行くか」

「そうしヨ、もう観光は十分楽しんだし。君が気絶してる間に」

「……おう」

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